セリフ詳細

「福寿草」


二月は暖かだったのに、三月になったとたんに寒い日が続いた。


「……雪」


玄関のドアを開けたとたんに流れ込んだ冷たい空気に驚く。


「ゆき」


六歳の娘が、私の真似をして外をのぞく。


「春来ないねえ」


娘の声に落胆の色が滲んだ。

春が来たら小学生ね、と言い聞かせているから、早く春が来ないかと楽しみにしているのだ。

このところ私はもっぱら娘の『学校ごっこ』の先生を役をやらされている。


「はるちゃん、匂いをかいでごらん? 春の匂いがするよ」


空気は冷たくても、三月の雪はやっぱり真冬の雪とは違う匂いがするように私は感じる。


「ね?」


と言ったが、鼻をうごめかす娘は、怪訝な顔をしている。

けれども「あ!」と声をあげると、娘は目を輝かせた。


「お花!」


彼女の指の先、うすく積もった雪の下から、黄色い福寿草が顔を出していた。


春が、始まる。

作品タイトル:花言葉ものがたり

エピソード名:福寿草

作者名:観月  tukinoniwa

132|その他|連載中|22話|23,297文字

花言葉, 掌編

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花言葉をお題にした掌編集を、作りたいなと思いました。
参加してくださる方→好きな花を選んで頂き300-500程度の小さなお話を投稿してください。
作中、特に表記のないイラストは、全てイラストACさんよりダウンロードした、夢宮愛さん(https://www.ac-illust.com/main/profile.php?id=aichinnokobeya&area=1)の作品です。
小説だけでなく、お花にちなんだイラストや写真の投稿も歓迎です。