第2話
文字数 6,178文字
僕は忍び猫足で二人の少女の後について行った。
二人は廃墟ビルの前まで来ると、立ちはだかるフェンス越しに誰も居ないその廃墟の建物を見上げた。
ステンレス製の網の目フェンスは、ビル一階の囲うように並んでいて、その先にある一階入り口である玄関を覆うように大きなベニヤ板で封じてあった。
僕もこのビルのことは知っていたし、入ってみたこともある。
ビルの外壁ははあちこちグラフィティとかいうかっこいいサインだったり、不格好な汚い文字で書きなぐったようなものが一階を中心に落書きされている。コンクリートは長年の風化でどころどころボロボロと表面が剥げている。ちょっと上の階を見上げてみると、割られたガラスサッシの中に真っ暗な闇を覗けた。
「うん、たしかに村山台駅は有名だし、なぜか村山台には出るという噂のスポットが多い。このビルに限って言うと、この前の動画を見てくれた視聴者さんからも、追加情報をもらったんだ。なんでもこのビル周辺で、少女が何人も行方不明になっていてこの十年で起きた事件は全部未解だっていうはなしだ。このビルで聞こえる声はその少女たちたちがすすり泣く声じゃないか?っていうご意見だった」
彼らはゴクリと唾を飲み込んでゆっくりと階段を上がっていった。
僕も悲鳴が気になったから、彼らの後を音もなくついて行った。
三階へ、次に四階へ、そして五階へ上がると、フロアの奥から廃墟には不釣り合いな電灯が灯り漏れていた。
キー&ウッシーの二人は、息を殺しながらすり足でフロアの奥へとすすんでいった。明かりが漏れてくる部屋の前まで来ると、二人はそれぞれお互いの顔を見合わせて呼吸を整えながら目で合図した。
僕も彼らの股の間から部屋の奥を覗いてみる。
部屋の床に女の子が横たわっていた。
女の子は何処かの高校の制服を着ていた。その綺麗な髪は乱れていて、顔は恐怖に歪んで要るように見えた。別に何かで拘束されている訳でもないのに、しびれてしまったように四肢は張り詰めて硬直している様子で、全身がビクビクと断続的に震えていて絶え間なく小さな悲鳴を漏らしていた。
(実際にはこの少女の状況は動画にモザイクがかかってきて視聴者には見えない)
暗がりから姿を表したのは、白髪と白ひげを生やしデコが禿げ上がった老人だった。老人はスーツを着ていて、右手に杖を持っている。
その顔は優しげだけど、眉間に三本のシワが深々を溝を刻んでいて、それを挟む両側の目が怪しく光っていた。うまく表現できないけど、一見老いた紳士に見える男が僕にはとても恐ろしい人間に見えた。
(この老人も動画ではモザイクがかかってきて動画視聴者には詳細がわからない。声も変調されている)「そのとおり。私はねぇせっかく招いた私をおいて逃げるなんざぁ、許せなかったんだよ!私はヒステリーを起こして気持ちが混乱していた彼女をここで落ち着くまで床で横になってもらっているんだ。そしてその様子を見ていたところだったんんだよ。そんな中で君たち侵入者が入ってきたというわけだ!!」
「このあと僕達は逃げる様にビルを出て、その後二度とそのビルへ行っていません。
他の動画投稿者や情報提供者から話によると、その後ここへ探索に入り5階へ行ってみても、他のフロアと同様で荒れ果てていて他に誰も居なかったてそうです。
しかしこのビルには謎のオーナーさんが、今もたまにいらっしゃるのかもしれません。それが本当なのか、信じるか信じないかはあなた方次第です!!」