第2話

文字数 6,178文字

僕は忍び猫足で二人の少女の後について行った。


二人は廃墟ビルの前まで来ると、立ちはだかるフェンス越しに誰も居ないその廃墟の建物を見上げた。


ステンレス製の網の目フェンスは、ビル一階の囲うように並んでいて、その先にある一階入り口である玄関を覆うように大きなベニヤ板で封じてあった。


僕もこのビルのことは知っていたし、入ってみたこともある。


ビルの外壁ははあちこちグラフィティとかいうかっこいいサインだったり、不格好な汚い文字で書きなぐったようなものが一階を中心に落書きされている。コンクリートは長年の風化でどころどころボロボロと表面が剥げている。ちょっと上の階を見上げてみると、割られたガラスサッシの中に真っ暗な闇を覗けた。

「想像以上にボロいね」
「うんまあ有名になっちゃったから、もういろんな人が入ってかなり荒らされているのかもね」
「でみんなはどこから入ってるの?」
「んとね‥‥確かフェンスのどっかから潜ってた気がするけど‥‥」

「あっ!もしかしてこの右端のフェンス金網破れてるかも。これを無理やり引き上げれば行けるんじゃない?」


「だったと思うけど・・・そうだね、もう一回動画見てみるよ」
「うん、こっからフェンス超えても、ビルの玄関べニアで封じられてるから、あれ突破しないとは入れんよね」
「ってヨウコ入る気満々じゃん!」
「いやいや入らないけどね。入って通報されたりしたらやだしね」
「えっそうなの?でも確かに警察とか呼ばれたらやだね。えーと、それじゃ怪異SEEKERキー&ウッシーのチャンネルもっかい見てみるね・・・・。あっこれレコメンドに二回目潜入って動画があるよ! 『少女の霊の声に呼ばれて廃墟リベンジ探索!遂に映ってしまった驚愕の恐怖映像!!』だって。やばっ【閲覧注意】付いてるこれ!」
「何なにどんな感じ?」
「一緒に見てみよっか」
そんな感じで二人はその場で再生された動画を見始めた。こんな廃墟の建物に、何がそんなに楽しいことがあるの僕にはさっぱりわからないけど‥‥
「どうも!!キーです!」
「おは今晩ちわ!!どうもウッシーでーーーーーす!!元気ですか―――!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!またここに来ちゃったぜ!」
「うわああああ!でたぁああ!ここがあの噂の村山台の廃ビルかよ!!」
「ウッシー初見のふりはいいから!みんなはもうわかってると思うけど、こないだはさぁ、あのささやく声で僕たちひよってしまって途中で帰っちゃったんだよねぇ。今回はさあ、みんなからリクエストももらってから、リベンジ凸と言うことでここの最上階を目指すぜえぇ!!!」

「前の動画でマジもんのマジな、誰かの泣いているような声が動画にもバッチリ入ってたからね!おっと、コメで加工とか言う人もいたけど、ハツキリ言っておくけど本当にあの音声ガチのガチのガチで、なんもいじってりしてないからね!みんな!!」
「そうそう!風の音とか環境音じゃなくて、みんなの耳にもちゃんと女の声に聞こえただろ!なんかさぁこのビルって、昔はちゃんと繁盛してたテナントビルだったらしいんだけど、このビルのオーナーが失踪してしまって、その後事件事故とかヤバメのことがあったらしくて無人になってその後今まで十年くらいずっとこんな感じで放置されてるって話なんだよね」
「こっから歩いてすぐのところに村山台駅があるじゃん?あそこの駅は昔から出るって都内でも有名な心霊スポットだったらしいだわ。てことはこのビルもそうだけどこの周りに怪異を呼びこむ何かすごい因縁があるとか、不幸な歴史とかもしかしてそんなことがあったりするのかな?」

「うん、たしかに村山台駅は有名だし、なぜか村山台には出るという噂のスポットが多い。このビルに限って言うと、この前の動画を見てくれた視聴者さんからも、追加情報をもらったんだ。なんでもこのビル周辺で、少女が何人も行方不明になっていてこの十年で起きた事件は全部未解だっていうはなしだ。このビルで聞こえる声はその少女たちたちがすすり泣く声じゃないか?っていうご意見だった」

「おっとキー坊!その話はおれ初耳だぜ!ちゃんと言っておいてくれよ!」
「あれ言ってなかった?まあキー坊の言ってたとおり、そういういわく付きの怪しい話がこの一帯には数多くあるみたいだ。この前このビルに来た時、あの少女のような声は俺たちにもしっかり聞こえたし、マジでこのビルは何か重大な隠された秘密があるんじゃないかと僕は思ってる!」

「うおおお!それは興味深いな!!今日それを突きとめてやるぜ!!!」
「だろう?だから今日はこのビルを徹底的に調査するぞ!」
「おおキー坊!怪異シーカーの本領発揮だ!!やってやるぜぇ!!!」
「よし!この破れたフェンスを捻じれば入れるぞ!!持ち上げてるからウッシー入ってくれ」
「サンキュウ!キー坊!!」
「このベニヤも実は片方剥がれてるんだよなっと、さぁ入るかー!!」
「うわーやっぱでも二回目だけどさ、ここめっちゃヤバいなぁ」
「ああ、何もかも滅茶苦茶だ!もとは古い家具だったんだろうけど、かびだらけだし、機器だったものは錆びだらけで赤茶けてしまってる。。壁や天井には穴があいるしな……。なんかの糞みたいのも落ちてるし、ネズミも住み着いてるみたいだ」
「本当にな。有名になって更に荒らされたんだろうし、誰かが持ち込んだゴミや瓦礫なんかも捨てられているみたいだしちょっと嫌な臭いがするよな‥‥みんなはこんなところに入ったらダネだぜ!危ないからやめとけよ!!」
「まぁ僕たちにとってはそれが醍醐味だろ?」

「ハハハハッ!それな!そのとおりだ!その危険と隣り合わせのスリルがおれはたまらないのさ!!」

「それぞ凸ツノを持つ男と呼ばれるウッシーだ」

「ワイルドだろぉう?!」

「古いのギャグはやめてね…視聴者減るから」
「あっごめっ‥‥‥‥さて!!それじゃ上に向かうぜえぇえ!!!」
「僕たちはとりあえず階段を二階に上がっていきます!足場のコンクリートはまだぜんぜん現役のことと変わらず大丈夫そうだ」
「ん?・・・・ちょっと待て、何か聞こえなかったか?」
「どうした?」
「いや、ちょっと二階のフロアの奥から音がしたような気がしたんだけど」
「音?どんな音だ?」
「わからない。カサカサって感じかな」
「カサカサ?それってネズミとかじゃないのか?」
「そうかもしれないな。まあ、気にすることはないか」
「‥‥ん?ちょっと待って‥‥」
「どうしたキー坊!?」
「やっぱなんかきこえるな・・・」
「おまえにも聞こえた?」
「うん、なんかカシャンっみたいな音が・・・」
「あっあれ見ろ!!」
「うわ!なんだ!?」
「目が光ってる!!」
「あ?でも普通に動いてるな!ジャンプして普通に外の塀に上がったぞ‥‥てあれっ只の」
「何だよぉお!野良猫かよ」
「脅かさないでくれよ!って皆さん、二階には野良の猫さんが住んいたようです」
「まだこっち見てる」
僕はたまたま居ただけだよ、てかこっちの方が先にいてビビったってのに。
「お邪魔します猫ちゃん!こっちこそ驚かしてごめんね」

わかればよろしい


「それじゃ気を取り直して次行いくかぁ!!」
「キャーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
「!!!」
「!!!!!」
「!!!!!」
「‥‥‥‥?」
「‥‥な、なに今の?」
「ああハッキリ聞こえた・・・・女の子の悲鳴だと思う。あれは幽霊とかの声じゃないな‥‥」
「悲鳴ってより絶叫だったな」
「ああ、事件が起きたときに聞こえるパターンの声だよな」
「マジでちょシャレになんないって」

彼らはゴクリと唾を飲み込んでゆっくりと階段を上がっていった。


僕も悲鳴が気になったから、彼らの後を音もなくついて行った。


三階へ、次に四階へ、そして五階へ上がると、フロアの奥から廃墟には不釣り合いな電灯が灯り漏れていた。


キー&ウッシーの二人は、息を殺しながらすり足でフロアの奥へとすすんでいった。明かりが漏れてくる部屋の前まで来ると、二人はそれぞれお互いの顔を見合わせて呼吸を整えながら目で合図した。


「よし入るぞ」
「OK」
二人が部屋に入っていく。
「おっ‥‥なっなんだこれは!?」

「なんで女の子が・・・?」

僕も彼らの股の間から部屋の奥を覗いてみる。


部屋の床に女の子が横たわっていた。


女の子は何処かの高校の制服を着ていた。その綺麗な髪は乱れていて、顔は恐怖に歪んで要るように見えた。別に何かで拘束されている訳でもないのに、しびれてしまったように四肢は張り詰めて硬直している様子で、全身がビクビクと断続的に震えていて絶え間なく小さな悲鳴を漏らしていた。
(実際にはこの少女の状況は動画にモザイクがかかってきて視聴者には見えない)
「この子幽霊じゃないよな?」
「とか言ってる場合じゃないって!配信者の前に人間だろ!?助けないと!!」
そんな彼らと違って、僕はその部屋の奥が気になっていた。じっと目を凝らしてみると、僕の猫目にはその壁に黒いシミのようなものが広かっていって、それは暗がりに誰かの人影が立っているのだと気づいた。
「おやおやこまったね。侵入者か?もしくは私のビルになにか用かな?」

暗がりから姿を表したのは、白髪と白ひげを生やしデコが禿げ上がった老人だった。老人はスーツを着ていて、右手に杖を持っている。


その顔は優しげだけど、眉間に三本のシワが深々を溝を刻んでいて、それを挟む両側の目が怪しく光っていた。うまく表現できないけど、一見老いた紳士に見える男が僕にはとても恐ろしい人間に見えた。

(この老人も動画ではモザイクがかかってきて動画視聴者には詳細がわからない。声も変調されている)
「あなた方は誰だね?」
「お、おれたちは‥‥うーんと・・・えーと‥‥」
「僕たちは個人でやってる動画配信者です。勝手に入ってすみません!廃墟探訪企画で撮影をしていたんです」
「YouTuberかい?それは面白いな。今はVTuberとかLiverとかいわれるアイドルが流行っているらしいねぇ」
「Vtuberとかご存じなんですか?」
「ああ娘たちが、推しのだれだれがいいとか、だれだれの声が素敵だとかねぇ、いろいろと私にも話をしてくれるものだからねぇ」
「それじゃYouTubeもご覧になってるんですか?」
「いや私自身見はしないが、とにかく君たちのような若者が、私のビルに勝手にカメラを持って入って詮索されるのはごめんこうむりたいねぇ。ときどき偶発的にゲートが開いていた時に、こうして君たちみたいな人間が入り込んでしまうこともあるだよ。勝手に入ってきてもらっては困るのだよ。このビルは‥‥私だけの秘密の楽園なのだから」
「楽園?」
「ああそうだ。天国と言い換えてもいいよ」
「あなたがこのビルのオーナーってことですか?」
「そうだよ。このビルは私のものだ」
「え?・・・で、でもここのオーナーさんは、かなり昔に行方不明になったという話で、現にいま廃墟になってますよね?」
「いや、見ての通りこうして私は幸せに暮らしているよ。廃墟でも私ひとりきりでもないのだよ。そして私は皆と一緒に、たくさんの思い出と共にいまも楽しく生きていますよ」
「思い出・・・?もしかしてそれは平成?または昭和の終わりの時代の話ですか?」
「ああ、確かに平成や昭和の終わりの頃も、このビルにたくさんの人々が出入りしていたねぇ。バブルのころは本当に華やかだったねぇ。私の家族や友人や仕事仲間もたくさん来てくれてねぇ・・・・たしかにその時代もみんな幸せだった」


「でも、ここには誰も住んでいませんよ‥‥」

「そうさ!みんな死んでしまったんだ!不運な事故や病気でねぇ。振り返ると悲しい出来事もたくさんあったねぇ。でもね、私だけが思い出と共に生き残っちゃったんだよ。こうして今も生きている。でもねぇ、私には保護すべき存在がいるんだ。だからまだまだ死ぬわけにはいかなのさ。そう!いまこの床に寝ているこの娘みたいに、他にもたくさんいる!!私は十分に今も幸せなんだよ」
「この子はいったい誰なんです?」
「私の娘さ。他にもたくさんいるんだがねぇ。特にこの娘は、私の言うことを聞かなくて手を焼いているだが、ハッハハハハハッ」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」

何やら部屋の中からから不信と不穏の混ざったような空気が漏れて来る。

「どうやら君たちは信じられないようだねぇ。それじゃ説明しよう。横たわるこの子は私の娘なんだ。この娘はある日私のビルに遊びにやってきた。でもねぇ私がせっかく出迎えたのに彼女は私のビルを嫌ってか、交際している男と勝手に逃げようとしたんだよ」
「逃げようとした?」

「そのとおり。私はねぇせっかく招いた私をおいて逃げるなんざぁ、許せなかったんだよ!私はヒステリーを起こして気持ちが混乱していた彼女をここで落ち着くまで床で横になってもらっているんだ。そしてその様子を見ていたところだったんんだよ。そんな中で君たち侵入者が入ってきたというわけだ!!」

「看病していたということですか?」

「そうさ、家族だからねぇ。看病していたと同時に、私は聞き分けのない娘にお仕置きを与えたのさ。肉体と魂に楔を刺したのさ。そして彼女は永遠に若さを手に入れた。永遠の17歳の乙女だよ。それは昔から女性たちが希求するこのうえない願望だよ。それを私が叶えてあげたってわけさ」
「で、でもあの‥‥」

「お前さんたちも私のビルに入った罪で、罰を受けなければならないのかな?どうなる分かるかい?」
「えっ!?ちょ、ちょっと勘弁してください!勝手に入ったことは謝ります!」
「僕も謝ります。許してください」
「フフフ・・・フハーハッハッハ!!冗談だよ。冗談に決まってるじゃないか!君たちは家族じゃないからねぇ。ただお引き取り願うだけだ。ただし、私やこの娘のプライバシーはちゃんと守ってくれるよね?モザイクをかけるなりしてくれないと困るよ。そうじゃなければあとでどんな罰を受けることになるかわかっているかね?」
「もう勝手に入らないんで、すみませんでした。動画もちゃんと処理しますんで」
「もう勝手に入らないんで、すみませんでした。動画もちゃんと処理します」
「わかったらいいさ、もうこういう身勝手な行為はやめたほうがいいかもね。何か恐ろしいことに巻き込まれてしまうともかぎらないのだからねぇ?フフフフフ・・・・」

「すみませんでした‥‥失礼します」
それで動画は途切れて真っ黒になり、そこに編集された白いテロップ文字が映しだされた。

「このあと僕達は逃げる様にビルを出て、その後二度とそのビルへ行っていません。


他の動画投稿者や情報提供者から話によると、その後ここへ探索に入り5階へ行ってみても、他のフロアと同様で荒れ果てていて他に誰も居なかったてそうです。


しかしこのビルには謎のオーナーさんが、今もたまにいらっしゃるのかもしれません。それが本当なのか、信じるか信じないかはあなた方次第です!!」

「レイカ、ちょっと長いよ!いつまで見てんの?」
「うん‥‥ごめん、ちょっと見入っちゃった。なんかね、このビルの疾走したって噂のオーナーさん、もしかしていまもこの中の五階にいるかもしれないって・・・・」
「え?・・・何言ってんの?どう見ても誰も居ない廃墟じゃん」
「そ、そうなんだけどね‥‥」
To be continued.
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登場人物紹介

芹沢ヨウコ。都立雛城高校二年生。実質なにも活動していない茶道部所属。紙の本が好きで勉強も得意だが興味のある事しかやる気が起きないニッチな性格のため成績はそこそこ。根はやさしいくリーダー気質だが何事もたししても基本さばさばしているため性格がきついと周りには思われがち。両親の影響のせいか懐疑派だが実はオカルトに詳しい。

水原レイカ。都立雛城高校二年生。芹沢ヨウコとは同級生で友人同士。弓道部所属して結構マジメにやっている。母子家庭で妹が一人いる。性格は温和で素直。そのせいか都市伝説はなんでも信じてしまう。ホラーは好きでも恐怖耐性はあまりない。

コタロー。村山台の地域猫でナレーションができる猫である。

君島キリト。怪異SEEKER-Keye(キー)&UCCy(ウッシッシー)というYouTuberのコンビで愛称はキー坊。ディレクションかつカメラ担当。映像クリエイーターを目指しエンタメ系の専門学校にかよっているなか、高校時代の友人だった牛山シオンと組んで動画配信を始めた。YouTube登録者数17万人のチャンネルを運営していて、視聴者の投稿を頼りに全国の有名廃墟や、未発掘のいわく付き物件を探しては遠征している。

牛山シオン。怪異SEEKER-Keye(キー)&UCCy(ウシッシー)というYouTuberのコンビで愛称はウッシー。MC担当。テンションの高さとフィジカルの強さが自慢。ピザ屋の配達と引っ越し業で鍛えた体で各地の危険な場所にも前のめりに潜入する肉体派。YouTuberとして有名になった後でも、引越センターに頼りにされおり、筋トレ代わりに引っ越し業でこなしている。

廃墟ビルディングの五階の部屋に突然現れた杖を突く老人。オーナーと自称しているが詳細不明な謎の老紳士。

囚われている謎の少女

正体不明の声

ユカと呼ばれる謎のメイド少女。

この辺りのボス猫で結構な年齢のオス猫。名前は助蔵。コタローの後見人的な存在でもある。

謎の種族。

逃げるネズミA

逃げるネズミB

黒い球体

耳と目の球

スーパーコタロー。

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