第10話
文字数 6,952文字
階段を一階まで降りてきたレイカは小さく咳き込みながら、ビルの玄関口へ向かって塵が積もった床の上を歩いて行った。見通しがわるくてもさすが昼間の日光が照らし混んでいる玄関口の先の外の世界へ向かって彼女はまるで地獄から逃れるように飛び出た。
空の見える外の世界にでたものの、彼女の辺り一面には廃墟のビル群が取り囲んでいた。レイカはその様子を見て夢でも見ているかのようにしばらく立ちすくんだ。何処を見ても荒廃したビル群や原型が判別つかない何かの倒壊した黒い影が地面を覆っていた。人影は何処にも見えないし気配もまったくない。
自分が抜け出てきた怪老人の廃墟ビルが霞むほど、周りのどのビル郡も夥しく破壊し尽くされて、半壊もしくは完全に倒壊し黒く煤けた残骸のコンクリートブロックの塊となって、ススと砂煙によっていぶされたかのような不気味は佇まいを帯び、巨大な残階が立ち並ぶすがた、何代かまえに打ち捨てられた墓地に立ち並ぶ傾く墓石のようも見えた。
レイカはもう一度振り返って自分が出てきた廃墟ビルディングを仰ぎみると、元あった単に劣化した外壁の姿ではなく、なにかとてつもない強烈な熱線で焼かれた後に汚い砂をぶちまけられたような黒く煤けた壁面がされられていた。
レイカは言葉もなくその場にへたり込んだ。彼女を取り巻く空には風に吹かれながらまとわりつくように砂埃のような微粒子がそこはかなく舞っていた。彼女は口を手で多いながら咳き込んでいたが、治まると天を仰いだ。
真上には無情の白銀色の雲で覆われ、遠くの空には押し寄せせめぎあうように行き場をなくした黒い雲が周囲一体を取り囲むように何処までも続いていた。遠くから雷鳴の轟が聞こえてきて、その遠くの黒い雲は局所的に地上へ、かなにか衣のように見えるたなびくまるでベールのような黒い雨を天から地へ向かって降らしていた。その雨は通常のシャワーのような癒やしはなく、その禍々しさは遠目でも容易に見て取れた。人知らぬ間に不遇の死を遂げた者たちの無念のままに固まったドス黒い雨が局所的に各地で地上に瀧のような雨をふらせているのだ。