五

文字数 619文字

 半日中列車に乗って、終点で降りた。降りたら風が颯々(さあさあ)吹いていた。同時に、何故か浜野が居た。
「君、如何(どう)して此処にいるんだね」
「先生の事(だから)屹度(きっと)最後(まで)乗ってるんだろうなぁって思いまして、先に終点の駅に来たんです」
「君は相変わらずの変人だね」
「変人で何が悪いんですか。先生だって他人に悪口を云うじゃないですか。僕より変人ですよ」
「変人で何が悪いのかね」
宗太は一息付いてから、
「其れに、毒舌家と云うのは()ういう人なんです。貴方は違うでしょう?」
と云った。
「ふぅん、左様ですか」
「君は何時も左様ですか、左様ですかと事を紛らわすね」
「だって、此の他に何も云うことが無いのですから」
「じゃ云わなければ宜しい」
「左様ですか」
宗太は溜息を吐いた。浜野の癖の治らなさは好く知っている。
「斯う云えば君、学校は如何したのだね」
「学校ですか。行ってませんよ」
「何故」
「詰らないのですから」
「詰らなくても行くんですよ」
(いや)ですよ。最近は物理が一番厭です」
「厭でもやるんですよ」
「……判りましたよ。じゃ明日から行きます」
「宜しい」
「先生は此れから如何(どう)なさるんです?」
「帰りますよ。誰かを評する気も無くなりましたからね」
「それなら私も」
浜野は其れきり走って何処(どこ)かへ行ってしまった──と思ったら、一人駅前の店で団子を喰っている。喰い終わったら、又走って改札を通って仕舞った。宗太は、浜野と同じように団子を喰って、列車に乗って帰った。帰ったらもう戌の刻位だったから直ぐ寝た。
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登場人物紹介

大島宗太

主人公で批評家。酷評しか言わない。


浜野庄次郎

宗太の大学での後輩。酷評を言う宗太を何故か慕っている。


佐竹宗栄

宗太の友人。大学入学後すぐに出家した。


大島誠一

宗太の兄。職につかず怠けている宗太を嫌う。


大島周造

宗太の父。宗太に留学を勧める。名主。


浜野玄太郎

浜野の父。


佐竹文造

宗栄の父。周造の親友。


大島舞

宗太の姉。誠一と同じく宗太を嫌う。


大島初

誠一の妻。宗太の嫂。宗太とよく気が合う。


大島永輔

周造の兄で宗太の伯父。

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