第4話 天使のお城

文字数 1,435文字

お茶を飲み、おやつを食べ、満足した頃には夕方になっていた。
ここか?
島の端と呼ばれる場所。

安全なフットパースは、そこから外れなければ何のリスクも負わずに行けた。


でもあのスリリングなロッククライミングは、ここまでの道のりを楽しい物にしてくれたかもしれない。いろいろなことは置いておいて、忘れられない思い出にしてくれたことは確かだ。


眼下に望む海は、私が崖の上に立っていることを教えてくれた。

(無事に登れて本当によかった……)
と、思った。


崖の下に砂浜はなくなっていたし、あれからもまだ地味に登りになっていたフットパースはけっこうな高さになっていて、出っ張った岩壁は素人では登れない感じになっていた。

(登った場所、まだましだった)
あれでよかったのだと思うことにした。

ここからなら登れなかった。というよりも、そもそも歩いてたどり着けなかっただろう。


ちょうど登ってすぐの場所にあったお茶もスコーンも美味しかったし。

とにかく、見晴らしもよく、素晴らしい景色が広がっていた。

(あの崖の上だもの。よく見える~)
そんなに遠くないところに島があって、その上に建物があった。
(おぉ~、アレか?)
………………
想像していたよりも小さくて、お城と呼ぶにはナンだった。
(天使は作れって言っただけで、作ったのは人間だし……)
煌びやかなわけでもなく、荘厳な宮殿が広がっているわけでもなかった。

それでも、そういう逸話があると、地味な建物も特別に見えなくもない。

(だって天使だもんね)
『天使』がつけば、わりと他はどうでもいい。

 それよりも……

夕日、

キレ~。

景色がすごかった。

冬の柔らかい陽の光。


その光が、私の観ている景色のすべてを照らしていた。

もやもやふわふわした真珠色の空気が満ちている。


私はその中に立っていて、その世界に包まれていた。

(どこを見ても、柔らかな光に包まれている)
そして、太陽から出ている光と雲の形がたまたま合って、天使の羽のように見えた。
(巨大な天使……)

ローブを着ている天使の後ろ姿。

太陽を頭部に、光と雲で白いローブを身にまとった羽の生えた天使に見えた。

(ここは天使が常駐してるのか?)
その昔、天使の声を聞いた人が、ここにお城を建てたという。
(これ見たら建てたくなるかも)
(お金があったらだけど)
私は建てないだろう。

でも、これを建てた人がいたから、私はここに来た。

(その人のおかげだな。こんな綺麗な景色が観れたの)
ありがとう。

見たこともない、お金持ちのおじさん。


でも、お金がなくても、どうしても建てたいと思ったおじさんが、お金持ちのおじさんを巻き込んで作ったのかもしれない……

(おばさんかもしれない)
きっと、みんなで力を合わせて作ったのだろう。







………………
そのままじっと見つめていたけれど、天使はこちらを向かなかった。
(そう見えるだけだし。そうなったら、それはそれで怖い)
でも、しばらく観ていた。

柔らかな光と空気が、心地よかった。

(天使の光に包まれてるみたい……)
それは、陽が沈むまでの出来事。

陽が沈んでも、しばらくそこにいた。








(いいもの観れた)







天使さん

ありがとう。

夜空でその姿ははっきりしなくなっていたけれど、お礼を言った。






…………
たまたまこういう天気の日に、たまたま近くを通っていて、たまたま遭遇できた景色。

私はこういうたまたまに逢いたくなることがある。


だから旅行をするのかもしれない。

気の向くままに、ふらふらと。

…………
     また会えるような

     そんな気がしている






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登場人物紹介

佳純(かすみ)

趣味は旅行と小説を書くこと。

御朱印も集めることがある。

※アイコンは白玉えん様から許可をいただいて使用しています。

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