第2話 地図と実際の道は、やや違うことがある
文字数 3,326文字
なんとなく、歩きたくないと思ってしまった。
似たような場所をもうずっと歩いていた。
ようやく海と出会えた。
しかもなんかいい感じで気持ちが上がった。
冬の海は嫌いではない。
寒くて泳げないかもしれないけれど、人がほとんどいないのがいい。それもまったくいないわけではなくて、パラパラとハイキングの格好をした人がフットパースに向かっていた。
そして海にはあまり人がいなかった。
でも、ちゃんとした道を行けば人がいるのがわかっている場所で、見渡す限り1人だと世界をひとり占めできるような気持ちになれて、それがこの上なく好きなのだ。
まったく1人ではない安心感がありつつのひとり占め感。
久しぶりに見る砂浜だった。
穏やかな波だった。
だから、ストレス発散になる何かを期待していて、それが満たされたような状態になっていた。
フットパースは少しずつ離れていたのは知っていたけれど、それでも海岸を歩いていたいと思ってしまった。そして地図を確認した。
岩が増えるということは、砂浜が減るということにも気づいていた。
岩だらけでゴツゴツで、登れそうな雰囲気ではなかった。
本の地図を見て、自分がいるであろう場所とフットパースの位置。それがほぼ重なっている。
その上の部分にフットパースがあることは予想ができた。
ただし、そこへ行くための階段はなかった。
階段などなかった。
戻るなど絶対に嫌だった。
いつでも来られる場所ではない。飛行機に何時間も乗って英国まで来て、さらにロンドンからバスで来ているのである。だから戻って時間のロスをするのは絶対に嫌だった。
そして気づくと、
砂浜はなくなり、私は岩の上にいた。
岩の下では波がチャプチャプと音を立てている。
まるで、テトラポットの上を歩いているようだった。
※歩いたことはないけれど、歩いたらきっとこうなるんじゃないかという感じ。
地図上では、フットパースは自分のすぐ横にあるはずだった。
しかし、実際はその間に10mくらいの高さの崖があった。
目測なので8mくらいかもしれないけれど。
足場はかなり悪く、思ったように進めない。
人がいるような場所ではなかった。
異国の地の海。自分にとっての当たり前が当たり前ではなくなるのをこの2週間で知っていたはずだった。
日本人が大好きな至れり尽くせりな階段などなかった。
しかもその階段を探して歩いていた。
たぶん、それくらいで陽が落ちて暗くなる。
見渡す限り、人はいない。
だって崖だもの。
この状態が耐えられるのは、明るい時だけ。
この期に及んでそんなことを考えていた。
バス停はスタート地点とゴール地点の2か所だけ。それぞれ路線が違っていて、フットパースには他の公共の乗り物はない。そもそも歩道なので車は走っていない。
案内板のあるスタート地点に戻るなら、来たのと同じ時間、わかっている道を歩くことになる。黙々と岩と砂浜を歩くだけ。スタート地点に戻ってから初めの目的だったフットパースを通って天使のお城に向かえば、城は観れるかもしれないが日は沈んでいると思われる。そしてゴール地点から出ている最終バスには間に合わず、町へ戻れず途方に暮れるかもしれない。
もしも戻るを選択すれば、スタート地点まで戻って乗ってきたバスに乗る。
天使のお城は諦めることになる……
しかし、もうひとつ、バスに乗る方法があった。
急がば回れ
が、脳裏をよぎる。
しかし