1節「”夢うさぎ”の人々 2」

文字数 1,518文字

あ、来た来た。
扉を思いっきり開く音を響かせながら、

赤い髪の男の子がお店に走り込んできました。

あ、おはよう! 夢月くん!
おはよう、そら! 

ごめんギリギリで……!

ううん、大丈夫だよ。
彼の心の底から慌てふためいているような

表情に、私はつい笑顔で返してしまいます。

何がギリギリだ。

余裕で遅刻だ馬鹿者。

ごめん、ごめんて。
彼がいるだけで場がパッと明るくなるような、

お店みんなの人気者です!

今日だけのことじゃん!

いつもは間に合ってるしさ! 許して!

あぁ、もちろんしっかり減給しておく。
えぇ~~~~!?
確かに夢月くんの遅刻は珍しい気がします。

どちらかと言えば、蓮夜さんの方が遅刻しがちなイメージです。


けれど1回は1回、と言わんばかりの吏星さんですが……

……まったく、今回だけだからな。

今後はよりいっそう気を付けろ。

やったー!

ありがとう吏星!

……こういう時、何だかんだ言って

吏星さんは夢月くんに甘く出ます。


厳しそうに見えて、人の良さが色々なところから

感じられるのが彼の魅力だと思っています。

天崎が掃除はしてくれている。

お前は厨房でランチメニューの

準備をしろ。

了解!
……あ、本当ごめんなそら。

絶対今日中に埋め合わせするから!

うん。いつでも大丈夫だよ。
遅刻は悪いことだけど……。

そんなところもどこか可愛らしく思えてしまう、

夢月くんは本当に純粋で純真な人なんです。

ねぇ夢月ちゃん。

ちょっと相談なんだけど。

身支度を終えた蓮夜さんが

夢月くんに声をかけました。

あ、おはよう蓮夜。

なになに? 俺で良いの?

うんもちろん。
私から見ても、蓮夜さんが夢月くんに相談、

というのはかなり珍しく思えますが、一体何を――

今日、お客さんにお皿を右から出すか左からにするか悩んでてさ。
どっちが様になってるか

見てもらっていい?

――何を……?
なんだそんなことかよ。
(サッ)
(ササッ)
右から左からと……

高速で蓮夜さんがお皿を出す仕草は、

つい見惚れてしまうほど優雅なものですが……

うーん、そうだな〜
どちらでも良いから……

どちらでも良いような……

恐らく蓮夜さんは、吏星さんを……

困らせて楽しんでいるだけだと思います……。

アッハハハ……
こんな感じで何故か慌ただしく始まるのが、

カフェ夢うさぎの日常です(笑)

開店すると、カフェ夢うさぎはいつもフル稼働。


香澄市では老若男女問わず、

皆に人気のお店なんです。

フフッ、ありがとう。
蓮夜さんは今日もファンの

女の子の相手をしています。


顔もスタイルも良くサービス精神も豊富な彼は、

"あの紫吹蓮夜"とさえ言われるほどの人気者です。

ねぇ、蓮夜様って

お店がしまった後は何してるんですか?

それは秘密だよ。

だってプライベートを教えたら

平等じゃないでしょ?

抜け駆けは禁止って皆が決めてるの

知ってるんだから。

いじわるー!
ごめんごめん。
何を話しているのかは聞こえませんが、

私には近寄り難い雰囲気です……。

……でも、良い子にしてればもしかしたら夢の中で会えるかもしれないよ?
私たちは本物の蓮夜様のことが知りたいんですー!
そんなテーブルの元へ、吏星さんが速足で

オーダー品を2つ抱えて運びます。


普通なら絶対無理そうなバランスなのに、

料理は全く乱れていません。

料理にも自分にも全く気が向いていない2人を無視し、吏星さんは何事もなかったかのようにその場を去り、レジの方へ戻ってきました。
僕はいつだって、皆のそばにいるよ。
キャー!!
吏星さん、

よく割って入れますよね……。

いちいち気にしてたら仕事にならん。

次に行くぞ。

それだけ言い残した彼は、オーダー一覧を一瞥し、

調理のため厨房に戻っていきました。

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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