5節「君のこと、本気にさせてみたい 4」

文字数 1,798文字

せめて彼女の答えを聞いてからでも良かったんじゃないの?
し、紫吹さん……!!

後ろに隠れてて。

すぐに終わらせるから。
(すごい数……)
押し寄せてきた夢魔は、大きさこそ宝生さんが捕獲したものと大差ありませんでしたが、その数はとても数え切れるものではありません。


それどころか、こう相対している間にも数をどんどん増やして行っているように感じます。

……思っていたより数が多いな。

危険を察知して集まってきたかな?

 ……まぁ関係ないけどね。

ネズミごときが何匹集まろうが――

紫吹さんが腕を振ったかと思うと……空中に幾本ものナイフが出現。夢魔目掛けて物凄いスピードで飛んで行くのが見えました。


ナイフは炸裂音と共に地面に突き刺さり、周辺の夢魔をまとめて吹き飛ばしてしまいました。

『――――――――!!?』
!!!!!?
宝生さんとは違う豪快な攻撃に、私は目を大きく開いてその場から動けなくなりました。
……別に俺は仕事を忘れたわけじゃない。

お前たちが出てきてくれたことは素直に嬉しいさ。


けど、それとこれとは話が別なんだよ。

『――――!!』
集まった夢魔の中の1匹が大きな声を上げると同時に、全ての夢魔が紫吹さんに背中を向けて一目散に走り始めます。


さっきの攻撃だけで、力の差を感じ取ったようです。

数が多いだけに、地響きのような重低音となった足音が、私たちの身体を揺らしました。

なに? 逃げる気?

ハッ! 人の"恋路"を邪魔しておいて、

タダで帰れると思ってるの?

紫吹さんはその場から一歩も動かず、

空中に向かって腕を高く掲げました。

刹那、空中から無数のナイフが雨のように降り注ぎ、逃げ出す夢魔の真上に余すことなく命中しました。


混ざり合った炸裂音は、あたかも砲弾や空襲のような爆発音と化し、夢の世界全体に轟音を響かせます。

アッハハハハハハ!!!
無数のナイフが突き刺さった地面には、

もう夢魔の影はありませんでした。


物凄い数の真っ黒な何かがそこにいたはずなのに、今私の目に映っているのは、駆除された夢魔の数よりもっともっと多い、長短がまばらな刃物の光だけです。

……ふぅ。

討伐完了っと。

……ごめん、お待たせ……
…………
って……あ!?
あまりの光景に気分が悪くなったのか……夢魔がいなくなって安心してしまったのか……それとも無数のナイフが心に突き刺さった影響なのか……。


私は全身の力が抜けて、

その場に倒れ込んでしまいました。

…………
ちょっと大丈夫!?

ねぇ!

意識がフェードアウトして行く感覚に襲われ……。


紫吹さんの声がだんだん遠くなっていき……

最後には完全に聞こえなくなりました。

――――――――
あれ……?
おはよう。

清らかな目覚め、だね。

私……確か……
気が付くと今度は治療室――

ということは現実世界のようです。


だんだんとこの流れにも慣れつつある自分がいるのに、違和感を覚えます……。

しっかし、夢の世界で倒れて現実に戻るなんて。今まで見たことないパターンだ。
君って本当、

見ていて飽きない女の子だね。

ふと、夢の世界であったことを思い起こします。


紫吹さんに言われたこと、

されたこと、してくれたこと……。


…………。


ちょっと……なんであんなことになったのか自分でも

分かりません……少なくとも現実の自分には……

全く分かりません……。

……し、紫吹さん――
ーー私の反応から察したのでしょう。


紫吹さんは私の動きに合わせて

自分の顔を私の顔に寄せました。


その距離感に……思わず顔が赤くなってしまったのが

自分でも分かります……。

そ、それは……
夢魔がいなくなった以上、あの夢の続きを一緒に見るわけには行かなくなった。


残念だけど、あそこまででおしまいさ。

…………。
……でも、続きがしたくなったらいつでも僕に声をかけて。その時は最初からやり直そう。
今度は夢じゃなくて現実でね。
…………!!
普通にまた会ってお話したいじゃ

駄目なんでしょうか……。


何だか、ずっと紫吹さんの掌の上で

転がされただけだったような気がします……。


これが"皆の紫吹蓮夜さん"の魅力……なのかも……。

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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