5節「君のこと、本気にさせてみたい 4」
文字数 1,798文字
せめて彼女の答えを聞いてからでも良かったんじゃないの?
押し寄せてきた夢魔は、大きさこそ宝生さんが捕獲したものと大差ありませんでしたが、その数はとても数え切れるものではありません。
それどころか、こう相対している間にも数をどんどん増やして行っているように感じます。
……思っていたより数が多いな。
危険を察知して集まってきたかな?
……まぁ関係ないけどね。
ネズミごときが何匹集まろうが――
紫吹さんが腕を振ったかと思うと……空中に幾本ものナイフが出現。夢魔目掛けて物凄いスピードで飛んで行くのが見えました。
ナイフは炸裂音と共に地面に突き刺さり、周辺の夢魔をまとめて吹き飛ばしてしまいました。
宝生さんとは違う豪快な攻撃に、私は目を大きく開いてその場から動けなくなりました。
……別に俺は仕事を忘れたわけじゃない。
お前たちが出てきてくれたことは素直に嬉しいさ。
けど、それとこれとは話が別なんだよ。
集まった夢魔の中の1匹が大きな声を上げると同時に、全ての夢魔が紫吹さんに背中を向けて一目散に走り始めます。
さっきの攻撃だけで、力の差を感じ取ったようです。
数が多いだけに、地響きのような重低音となった足音が、私たちの身体を揺らしました。
なに? 逃げる気?
ハッ! 人の"恋路"を邪魔しておいて、
タダで帰れると思ってるの?
紫吹さんはその場から一歩も動かず、
空中に向かって腕を高く掲げました。
刹那、空中から無数のナイフが雨のように降り注ぎ、逃げ出す夢魔の真上に余すことなく命中しました。
混ざり合った炸裂音は、あたかも砲弾や空襲のような爆発音と化し、夢の世界全体に轟音を響かせます。
無数のナイフが突き刺さった地面には、
もう夢魔の影はありませんでした。
物凄い数の真っ黒な何かがそこにいたはずなのに、今私の目に映っているのは、駆除された夢魔の数よりもっともっと多い、長短がまばらな刃物の光だけです。
あまりの光景に気分が悪くなったのか……夢魔がいなくなって安心してしまったのか……それとも無数のナイフが心に突き刺さった影響なのか……。
私は全身の力が抜けて、
その場に倒れ込んでしまいました。
意識がフェードアウトして行く感覚に襲われ……。
紫吹さんの声がだんだん遠くなっていき……
最後には完全に聞こえなくなりました。
気が付くと今度は治療室――
ということは現実世界のようです。
だんだんとこの流れにも慣れつつある自分がいるのに、違和感を覚えます……。
しっかし、夢の世界で倒れて現実に戻るなんて。今まで見たことないパターンだ。
ふと、夢の世界であったことを思い起こします。
紫吹さんに言われたこと、
されたこと、してくれたこと……。
…………。
ちょっと……なんであんなことになったのか自分でも
分かりません……少なくとも現実の自分には……
全く分かりません……。
ーー私の反応から察したのでしょう。
紫吹さんは私の動きに合わせて
自分の顔を私の顔に寄せました。
その距離感に……思わず顔が赤くなってしまったのが
自分でも分かります……。
夢魔がいなくなった以上、あの夢の続きを一緒に見るわけには行かなくなった。
残念だけど、あそこまででおしまいさ。
……でも、続きがしたくなったらいつでも僕に声をかけて。その時は最初からやり直そう。
普通にまた会ってお話したいじゃ
駄目なんでしょうか……。
何だか、ずっと紫吹さんの掌の上で
転がされただけだったような気がします……。
これが"皆の紫吹蓮夜さん"の魅力……なのかも……。
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