必要としなくなった少年
文字数 1,466文字
あれから、半年以上が経つが、僕は、ほぼ毎日、少年と会っていた。
厳密には、学校がある、月曜から土曜の間、ということになるが。
人間からすれば、半年というのは、長いと感じるのかもしれないが、
僕のような悪魔からすれば、それは、ほんの一瞬の事に過ぎない。そういうもんさ。
少年と会うのは、いつも学校の屋上と決まっている。
まぁ、僕としては、また突発的に、少年が空を飛ぼうとしたりしないか、気が気じゃなかったけどね。
でも、最近では、少年と会う回数も、めっきり減って来ていた。
少年が絶望するサイクル、間隔が、次第に長くなって来ている。
少年との別れの日が近い、そのことは、僕も分かっていた。
人間の発言に、『明けない夜はない』という言葉があるらしいが、
まさしく、その通りで、どんなに暗い夜でも、いつかは明けてしまうものさ。
まぁ、ただ、夜が明けるまでに、一年かかるか、十年かかるかの違いはあるのだけれどね。
僕は、悪魔だから、暗い夜のほうが、ありがたいのだけれど、
少年にも、夜明けが訪れようとしている、そういうことだ。
久しぶりに会って、僕が食事を終えた時、少年はそう言っていた。
やはり、僕の勘は正しかった……。
あの時は、発作的に、衝動的に、空を飛んでしまったんだろうけど、
この少年は、本来、過酷な困難を乗り越えて、前に進んでいけるだけの力を持っている人間だ。
よかったなんて言い草、それじゃあまるで、人間みたいじゃあないか。
ちょっと、僕は、自分で自分にびっくりしたよ。
既成概念に囚われない悪魔だから、そういうことがあってもいいの、かな。
僕は、君の絶望を、ご馳走になっていただけなんだけどね。
その時、僕は、今日が別れの日であることを悟った。
でも、それでいい。
僕は、人間の絶望を求めてさまよう、流浪の悪魔だからね。
ひとつところにずっと居るのは、似合わない。
――こちらこそ、今までごちそうさまでした……。
それからはもう、少年の絶望の匂いを感じることは無かった。
あの時以来、僕は少年には会っていない。
そして、最初に少年と会った学校の上空を、たまたま通りがかった時に、
僕は少年の姿を、見かけることが出来た。
少年は、友達と一緒に居て、楽しそうに笑っていた。
今の君が、そんな笑顔をしているのなら、
もう僕とは会わずにいられるだろう。
でも、これから先の長い君の人生、
もし君がまた絶望した時には、会いに行くよ、
君が空を飛んでしまう、その前にね。