第12話 公開テストを受けるぞ!

文字数 1,585文字

 夏休みが終わり、日常の高校生活に戻った。部活が終わると俺達は、用具を片付けてから、最寄り駅まで一年生六人で歩いていく。そこで、柏方面の佐川と能見の二人を見送り、残された「普通の四人組」は船橋方面への電車を待っていた。急にナベが、今までにない真剣な面持ちで口を開いた。そういえば、今日のナベは普段の陽気さが欠けていることに、今更ながら気が付いたのだ。
「あのさぁ……みんなは、高校卒業したらどうするか考えている?俺、両親も姉ちゃんも大学に行っているから、普通に大学に行くものだと思っていたのだ。だけど、この学校の進路を見ると大学と専門学校が半々くらいの割合のようだから、ちょっとみんながどう考えているか気になって……」
 ナベは進路のことを考えていたのか……「普通」の高校生になるという命題を実現した俺は、正直言うとまだ具体的に将来のことは考えていなかった。けれど、子供の頃から両親が「大学時代に出会った」という話を聞いていたので、自分も普通に大学に進学するものと思っていた。
「俺は、具体的にどういう学部に行くとか決めてないけど、何となく普通に大学に行くものだと思っていたな。田中は?」
「俺は、叔父さんが西船橋で写真館をやっていて、父親の様にサラリーマンで働くよりは、叔父さんの様に生きたいなと思っている。だけど、写真って何かもう一般人でも普通に上手く取れるからなあ、どうしたらいいかなぁ~と悩んでいる感じ。山本は?」
「俺もナベと一緒で、両親が大卒で、中学生の弟は大学の付属に通っているし…… だから、まあ、自分も大学に行くものだとおぼろげに思っているかな。」
 ナベによると、ナベは夏休みに我聞塾の公開テストを受けたのだが、ナベの期待を大きく裏切った成績が返ってきて、家族からも厳しく言われたとのことだ。
「みんなも大学に行くのだったら、一回テストを受けてみた方がいいと思うよ。」とナベが提案してきた。
 公開テストか……言われてみれば、俺は高校入学後には学校の定期テストしか受けていない。まあ、俺はこの高校には多少余裕を持って入ってきたこともあって、一学期の成績はクラスで二位と予想以上に良かった、だから、今の今まで安心しきっていた。
「俺も将来がまだ見えないから、次のテスト受けてみるかな。」
 珍しく、田中が前向きな姿勢を示したこともあり、俺達は秋の公開テストを受験することとなった。
 公開テストの日、船橋のテスト会場の指定された座席に座ると、俺は、船橋学園や幕張学院などの偏差値七十くらいの学校の生徒に囲まれていることに気がついた。「俺はとんでもなく場違いな場所に来てしまったのではないか?」俺は、テストを受ける前から変な緊張感に支配されてしまい、最初の英語のテストは手も足も出なかった。
しかし、数学の時間になり、「彼らとは最初から土俵が違うのだ」と自分に言い聞かせ、自分の今の力を信じて問題に取り組んだ。

 翌日の部活帰り、いつもの様に四人組で船橋方面に向かう電車に乗り込み、テストの感想を聞いてみた。
「テストどうだった?俺は席の周りが頭のいい連中に囲まれて、凄く緊張した。だけど、思っていたよりは難しくはなかったかなと……」
「はぁ、俺、多分また国語がボロボロだ。」とナベが言うと、そしてそれに呼応するように山ちゃんも(つぶや)いた。
「俺は逆に数学が全然ダメ。田中は?」
「俺もまあ、感想としては中村に近いかな。そういえば、成績表が郵送されるときに一定以上の成績が取れていると我聞塾の次のテストの無料チケットがついてくるとか言っていたな。まあ、それが来たら次も受けてみるかな。」
「いいなぁ二人は……実は俺、高校受験の時、自己採点が結構ギリで入ったからなあ……出来のいい弟もいるし、嫌だなぁ成績をみるの。ナベのこの間の気持ちがわかるよ。はぁ~」
と山ちゃんはがっくりと肩を落としていた。
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