第17話 色をくれたのは君④
文字数 1,333文字
「クラスの子に挨拶はできても、それ以上話しかけることがどうしてもできなかった。私が話しかけたら相手が不快になるんじゃないかって、悪い想像ばかりが浮かんで怖かった」
深雪は言い終えて下唇を噛んだものの、すぐに歯を唇から離した。
「そんなことを考えているうちに、とっくにクラスの女子はグループを作ってた。時間が経つにつれて周りに置いていかれたようで焦ったし、だんだんと居場所がないように感じた。自分を変えられなかった私が悪いし、だからこそ毎日が辛かった」
殻を破れなかった自分を何度も責めた。どうして自分はこうなのだと、何度も思った。思い出すと涙が溢れそうで、誤魔化すように深雪は天井を仰いだ。
「いいんだよ。そんなに自分を責めなくて」
「え?」
届いた優しい声に、深雪は川瀬を見た。
「藤野さんは許せなかったんだよね。変われなかった自分のことが」
その言葉を聞いた瞬間、深雪の頬を涙が伝った。同時に、妙に納得がいった。
入学当初、知り合いが一人もいないのだから、自ら行動しなければ友達は作れないと思った。それをわかっていながらも、結局は上手く立ち回ることができなかった。
「そっか。私、自分のことが許せなかったんだ……」
発した自らの言葉が心に浸透していくような感じがした。
「川瀬君がいなかったら、気づけなかったなぁ」
涙を指で拭いながら深雪は笑った。
「今の藤野さんは独りじゃない。少なくとも俺がいる。だからもう、自分を許していいんだよ」
そう言って川瀬は柔らかく微笑んだ。
じわりと深雪の視界が滲み出す。瞬きをすると再び涙が溢れ落ちた。
「藤野さんは変わりたかったかもしれないけど、変わらなかったからこそ俺はありのままの藤野さんと出会えた。嘘で塗り固めた自分を見せるより、素の自分を見せられる方がよくない?」
首を傾けてこちらを見る川瀬に深雪は頷いた。
「うん。その方がずっといい」
両頬は涙に濡れていて、恐らく酷い顔になっている。そんなことが気にならないぐらい、川瀬の発する言葉全てが深雪の心に響いた。
いい加減に涙を拭こうと深雪はスカートのポケットからハンカチを取り出した。黄色いその布を目元に当てたところで、スポーツ大会の日も似たようなことがあったなと思い出した。
ふと掛け時計に目を向けると、時刻は8時を回ろうとしていた。先程よりも廊下は騒がしく、賑やかになっている。
川瀬は半端に残っていたおにぎりを口に放り込み、飲み込んだタイミングで言葉を発した。
「2学期、教室に戻ってみない?」
唐突に放たれた一言に、深雪は「え……」としか言えなかった。
「昨日の今日で、まだ藤野さんの気持ちも落ち着いてないと思う。最終的に結論を出すのは藤野さんだし、俺が口を出していいことじゃないけど……」
深雪は静かに紡がれる言葉を待った。
「ここに来るようになって気づいたんだ。藤野さんと話すのが楽しみになってる自分がいることに。そのうち教室で堂々と藤野さんと話がしたいとか、学校行事の思い出なんかも一緒に作りたいって思うようになってた」
「教室で、私と……」
話がしたい。そう言ってくれるのは素直に嬉しい。教室に戻るきっかけを、川瀬は与えてくれている。
しかし、深雪はふるふると首を左右に振った。
深雪は言い終えて下唇を噛んだものの、すぐに歯を唇から離した。
「そんなことを考えているうちに、とっくにクラスの女子はグループを作ってた。時間が経つにつれて周りに置いていかれたようで焦ったし、だんだんと居場所がないように感じた。自分を変えられなかった私が悪いし、だからこそ毎日が辛かった」
殻を破れなかった自分を何度も責めた。どうして自分はこうなのだと、何度も思った。思い出すと涙が溢れそうで、誤魔化すように深雪は天井を仰いだ。
「いいんだよ。そんなに自分を責めなくて」
「え?」
届いた優しい声に、深雪は川瀬を見た。
「藤野さんは許せなかったんだよね。変われなかった自分のことが」
その言葉を聞いた瞬間、深雪の頬を涙が伝った。同時に、妙に納得がいった。
入学当初、知り合いが一人もいないのだから、自ら行動しなければ友達は作れないと思った。それをわかっていながらも、結局は上手く立ち回ることができなかった。
「そっか。私、自分のことが許せなかったんだ……」
発した自らの言葉が心に浸透していくような感じがした。
「川瀬君がいなかったら、気づけなかったなぁ」
涙を指で拭いながら深雪は笑った。
「今の藤野さんは独りじゃない。少なくとも俺がいる。だからもう、自分を許していいんだよ」
そう言って川瀬は柔らかく微笑んだ。
じわりと深雪の視界が滲み出す。瞬きをすると再び涙が溢れ落ちた。
「藤野さんは変わりたかったかもしれないけど、変わらなかったからこそ俺はありのままの藤野さんと出会えた。嘘で塗り固めた自分を見せるより、素の自分を見せられる方がよくない?」
首を傾けてこちらを見る川瀬に深雪は頷いた。
「うん。その方がずっといい」
両頬は涙に濡れていて、恐らく酷い顔になっている。そんなことが気にならないぐらい、川瀬の発する言葉全てが深雪の心に響いた。
いい加減に涙を拭こうと深雪はスカートのポケットからハンカチを取り出した。黄色いその布を目元に当てたところで、スポーツ大会の日も似たようなことがあったなと思い出した。
ふと掛け時計に目を向けると、時刻は8時を回ろうとしていた。先程よりも廊下は騒がしく、賑やかになっている。
川瀬は半端に残っていたおにぎりを口に放り込み、飲み込んだタイミングで言葉を発した。
「2学期、教室に戻ってみない?」
唐突に放たれた一言に、深雪は「え……」としか言えなかった。
「昨日の今日で、まだ藤野さんの気持ちも落ち着いてないと思う。最終的に結論を出すのは藤野さんだし、俺が口を出していいことじゃないけど……」
深雪は静かに紡がれる言葉を待った。
「ここに来るようになって気づいたんだ。藤野さんと話すのが楽しみになってる自分がいることに。そのうち教室で堂々と藤野さんと話がしたいとか、学校行事の思い出なんかも一緒に作りたいって思うようになってた」
「教室で、私と……」
話がしたい。そう言ってくれるのは素直に嬉しい。教室に戻るきっかけを、川瀬は与えてくれている。
しかし、深雪はふるふると首を左右に振った。