第9話 特別面談

文字数 1,438文字

 調整の末、特別面談は1週間後に決まった。深雪は不安を抱えながらもいつも通り登校し、自習をして日々を過ごした。

 そうして1週間はあっという間に過ぎて、面談の日が訪れた。放課後の相談室には担任と深雪、そして彼女の父親の姿があった。

 中学生の頃から面談に足を運ぶのは基本的に母親だったが、今回は事情が事情なだけに顔を出したのは父親だった。

 いつも自習で使っているテーブルを挟んだ向かいに担任が座り、深雪の右隣には父親が座っている。軽い挨拶が交わされた後、面談は始まった。

 梅雨の影響からここしばらくは雨の日が多かったというのに、この日に限って空は晴れていた。衝立越しに微かに届く日光が、少しだけ憎らしい。

「すでにご存知だとは思いますが、現在深雪さんはここで毎日を過ごしています」

 担任の言葉に、父が勢いよく頭を下げる。

「ご迷惑をおかけしまして、本当に申し訳ありません」

 釣られるように深雪も頭を下げた。

「いえ。相談室通いだとしても、きちんと登校していただいているだけ、こちらとしてはありがたい限りです」

 眼鏡をかけた下膨れ顔の担任は、そう言ってから深雪の方を向いた。

「いつも頑張ってるもんな」

 そんなことを言われると思っていなかった深雪は、目を瞬いたあとに「ありがとうございます」と口にした。

 担任は父の方に向き直ると、真剣な顔つきになった。

「深雪さんですが、現在授業には出ていませんが5月の中間考査の結果を見る限り、5教科の成績には問題ありません。ただ、現在授業の欠席が続いているので日々評価は減点されていますし、期末考査の結果次第では変わってきます。あとは体育や選択授業についてですが、こちらは実技の面があるので、担当教諭からは成績がつけられないとの声が出ている状態です」

「そうでしたか……」

 父がなんとも言えない声を出す。

「体育については、せめて見学という形でもいいので出席できれば、成績がつけられると担当教諭からは話がありました。選択授業については、芸術科目なので提出物がきちんと出ていることが必要のようで……」

「そうですよね……」

 溜息混じりに父は言葉を吐き出した。

「ただ、今の深雪さんに無理強いはできませんので、こちらとしても見守ることしかできないのですが……」

「本当にご迷惑をおかけしまして、申し訳ございません」

 父は再び頭を下げた。

 その姿に、こんなことをさせているのは自分なのだと深雪は思わず下唇を噛んだ。

 通常の学校生活を送っていれば、父がこうしてこの場に足を運ぶことはなかった。迷惑をかけている自覚はあったが、自分のせいで親が担任に頭を下げている光景は、こうも居た堪れない気持ちになるのかと深雪は思い知った。

「こちらこそ、僕の力不足で申し訳ありません」

 担任も頭を下げてそう口にした。

 彼に対しても「先生が悪いわけじゃない」と深雪は叫びたかったが、そんな勇気はなく喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。

 重苦しい空気の中、面談は進んでいく。

「深雪さんのこれからについてなのですが……僕としては、せっかく受験を乗り越えて入学したのですから、なんとか卒業までいってほしいというのが本音です」

 担任の言葉に深雪は、母が以前同じようなことを言っていたなと思い出した。

 父が力強く頷いて口を開く。

「こちらも同じ考えです。学校へのご迷惑は避けられませんが、私も妻も、娘にはきちんと卒業してほしい。そう思っています」

 この場にいない母も含め、大人達の意見はどうやら同じらしい。
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