第8話:先生のお誕生日(その42)

文字数 1,236文字

誕生日会の後半は、先生とずっと楽しくお話をしていた。

普段の生活では、周りの目が気になるから、ほとんど話をすることもないし、電話で話すとしても、家では堂々と話せないから、塾の帰りにちょっと話をするだけだし。

だけど、今日は二人きりで何も心配することが無いから、学校のこと、勉強のこと、先生の学生時代のことなど、いっぱいお話ができて、とってもうれしかった。

でも、そんな楽しい時間は早く過ぎていく・・・。

「あ、もう5時前なんですね。
そろそろ帰らないと、親が心配するので・・・」

壁にかかっていた時計を見て、私は急に現実に戻された。

今日も親には『図書館で勉強してくる』とウソをついて、先生の家に来たので、いつものように5時ぐらいに帰らないと、間違いなく心配される。

先生も時計に目をやり、
「そうだな、長く引き留めてしまってごめん。
ただでさえ、夏菜に無理言って誕生日会に来てもらっているのに、これ以上迷惑かけるわけにはいかないし」
と言って、ベッドの横に置いていた私のカバンを取ってくれた。

私はカバンを受け取り、
「お邪魔しました。
今日は本当に楽しかったです」
と言って、玄関に向かう。

本当はもっと一緒にいたい。
でも、まだ私は学生だから、そんなことはできないし、無理言って先生を困らせるわけにもいかない。

そんなモヤモヤした気持ちを抱えながら、玄関で靴をはく。

先生が、
「本当は送りたいけど、送れなくてごめん」
と言うので、私は首を横に振り、
「大丈夫です。
誰かに見られてしまうと困りますし、気にしないでください」
と、先生を安心させるためにニコッと微笑んだ。

本当はこのまま帰るのがさみしくて、今にも泣きだしそうな気持ちなのに・・・。

「それじゃあ・・・」
と、ドアノブに手をかけようとした時、
「あ!忘れ物しました!」
と言って、私は先生の方に振り返った。

「忘れ物?」

「ハイ、忘れ物です」

そう言って、私は先生の首に手を回す。

先生の方が身長が高いから、私は精一杯背伸びして、
「だ・・・『大好きです』って言い忘れました」
と伝えた。

さっき「好き」と伝えたけど、もう一度ちゃんと伝えておきたかったから。

これからも先生の「彼女」でいたいから。

だから、素直な気持ちで伝えたんだけど・・・

らしくないことをしたせいか、めちゃくちゃ恥ずかしくなってきた!

また顔が一気に赤くなっていく!

私は、首に回していた手を急いでふりほどくと、
「わっ、忘れ物はそれだけです!
じゃ、じゃあ!」
と逃げるようにドアを開けて外に飛び出そうとした。

が、
「夏菜!」
と言って、先生が私を引き留め、後ろから強い力で抱きしめてきた。

ドアを開ける前。
玄関で抱き合う二人。

心の中で、
『早く帰らないといけないのに・・・』
という気持ちと、
『あともう少しだけ・・・』
という気持ちが入り交ざる。

心地よい心臓の音にドキドキしていると、先生が、
「おれも、大好きだよ」
と甘い声で耳元でささやいた。

「先生・・・」

そして気づけば、再び、お互いの唇を重ね合わせていた。


★第8話、終わり★

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登場人物紹介

高山流星

地学担当教師

西森夏菜

学年一の秀才。真面目な優等生。

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