第8話 帰宅

文字数 951文字

海沿いの小高い丘上にある白い家が彼らの棲みかだ。家の前には小さな坂があって、崖下からでも家の外観はなんとなく目視できる。

時刻は19時頃、もうすっかり日も落ちているのに、家には明かり一つついていない。それは即ち家に誰もいないか、あるいは皆寝ているということを示している。

しかしこの時間に消灯しているというのは違和感があった。この家には12人も住んでいるのだ。全員が外出しているということは滅多にないし、こんな早い時間に全員床に着いたというのも考えにくい。

実際、こういう状況は二人にとっても始めてだった。些細(ささい)なことではあるが、何か言葉にできない『違和感』がある。

「なんで電気がついてないんだ?」

「皆外出してることなんてないよね。フタバもいるんだし」

「なにか……今日はおかしい。こんなこと今まであったか?」

「うーん、何もないとは思うけど……確かに変な感じだね」

「レジーナ、お前はここで待ってろ。念のために様子見てくるから」

「嫌だよ。私も行く」

「ダメだ。もしも何かあったらお前が警察を呼んでくれ。10分経っても俺が戻らなかったら頼む」

「分かった……気をつけてねノア」

そう言った彼はレジーナを残し、一人玄関に向かった。取っ手を握るとギィと音をたてながら扉が開く。普段は閉まっているはずの鍵が空いていた。

「誰もいないのか」

警戒しながらノアは一歩ずつ廊下を進む。人の気配がなく、弟妹も皆いない。

「おかえりノア」

背中の方から声が聞こえた。振り替えるとそこにはいつもと雰囲気が違い、身だしなみを整えたキングワンがいた。

「びっくりした。どうしたんだよ? なんか変じゃないか?」

「お前に見せたいものがある」

声の色も険しく、昼に学校に現れた時とは全く違う人間のようであった。

「なんだよ。皆はどうした?」

なぜかキングワンは何も答えず、ただついてこいとだけ言って、リビングの方に向かう。

「誰か来てるのか? なんで何も言わないんだよキングワン」

「皆で食べる飯は旨いよな」

「何言ってるんだよ?」

「さぁお前も座れノア。俺たちと一緒に食べよう」

「誰がいるんだよ!」

リビングの扉を開けるとそこには明かりが灯っており、見たこともない七人の男女が席につき、黙々と食事をしていた。

「えっ…………これは?」

最も残酷な光景がノアの前には広がっていた。



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