第9話 残虐

文字数 1,823文字

リビングには9つの死体が散乱していた。部屋中に血が飛び散り、内臓や眼球が床にへばりついている。

聞こえるのは食器の音、白い皿に乗った赤い肉塊をナイフとフォークで切り分け、次々口に運ぶ老若男女の集団が食卓にはいた。

「何だよこれ? どういうことだ? 全然分からねぇよ! なぁ皆はどこだ? あいつらは誰だ?」

「あいつらは俺の仲間だ」

「じゃあ皆はどこに?」

「ちゃんと見ろ。目の前にいるだろ」

目を(つぶ)りたくなるような光景であった。登頂部を切り取られた9つの生首は苦悶の表情を浮かべながら、ノアの方を見つめていた。食事を楽しむ集団はその頭部にワインを注ぎ、グラスとして使っている。血と葡萄の赤が混ざり合った黒い液体を連中は嬉々として飲んでいた。

「トオヤ……ノーヴェ……ハク……ナナチ……ムツキ……イツキ……シメイ……サクヤ……フタバ……」

どれだけ歪んでいても、その顔が家族のものであると彼は一目で分かった。大好きな家族の変わり果てた姿を彼はとても受け入れられない。


──どういう状況なんだよっ!? こいつらは誰だ! あれ皆が? 死んでる? いやそんなわけない。これまさかキングワンがやったのか? いやありえない。誰よりも家族を愛してるあいつがそんなこと……するわけない。ダメだ状況が理解できない!!

彼らはデザートを楽しむように、なんの加工もしていない心臓を口に運んでいる。

「見てのとおり死んでいる」

「なんでだよ、なんで? おい! お前ら食べるのやめろよ」

ノアは謎の集団に必死で訴えかけたが、黙殺されてしまい、もうどうすることもできなかった。


──あぁこれは夢でも何でもない……誰がこんなことをしたのかは知らないが、一つだけ分かることは……皆はもう死んでる。なによりも大切な人たちが皆死んだ。なにも守れなかった。全部俺のせいだ。弱くて無能な俺のせいでっ皆は死んだ! それだけが事実だ……

「あぁ大切なもの全部奪われた……」

脳が焼き切れそうな絶望を感じながら、ノアはその場にへたりこんでしまった。頭を抱えながら悲痛な声を上げ、恨みの籠った声で叫ぶ。

「誰がやった? お前らか?」

食事する人々は返答もせず微笑んでいる。とても楽しそうな夕食、本来そこに座っているのは自分たちのはずなのに何故こうなってしまったのかと、ノアは何度も考えた。答えは出ない。

「全部俺がやった」

一番聞きたくなかった返事がキングワンの口からは発せられた。もう擁護できない。本人が言っているのだから、それが事実だ。

「そうか……じゃあ死ね」

ノアの様子は尋常ではなかった。ガタガタと震え心臓が高鳴っている。目は真っ赤に血走り、歯や爪が黒く鋭利に尖り始める。その姿はとても人間とは思えない、化け物のような容貌であった。

「ようやく自分が何者なのか思い出したかノア」

溢れ出す瘴気に空間が歪む。全身の筋肉が肥大化し、皮膚が赤黒く硬化する。13の眼を持つその顔は人のものとはかけ離れた(いびつ)で邪悪なものであった。

「お前たちを狂気へと(いざな)う。俺がッ……グレートオールドワンだ」

もはやそれは人ではなく神子でもない。彼方の者の名を『裁人(サバト)』という。



SAN値0
Count the chaos
現在、天神ノアの使える能力は……
創世の天神 ???
ルルイエの王 クトゥルフ
星喰炎 クトゥグア
永久の時間牢 ルリム=シャイコース
紫衣の王 ハスター
世界を喰らう者 ツァトゥグア
燃え盛る赤血 ディタラ
角を司る猟犬 ティンダロス
宇宙猫 ウルタール
狂気の山脈 ショゴス 
底に根づく星 シアエガ
罪を狩る者 ニョグタ
堕ちる影 イブ=ツァトル
屍羅刹 グール
大魔導書 ネクロノミコン
グラーキの罠 イゴール=ナク
彼方からの声 アルワッサ
追跡する光球 イオド
従順なる白 ナラトゥース
永劫より来たる者 イグ
美の偶像 イドーラ 
王の血を継ぐ者 ガタノトーア
博物館の恐怖 ラーン=テゴス
監視する無限の瞳 アイホート
深海に潜む厄災 クタアト
月の癌 ムーンビースト
融解する狂気 グラーキ
暗い暗い夜の悪戯 ナイトゴーント
山より出でし像神 チャウグナー=フォーン
深淵の呪詛 アトラク=ナクア
闇に囁く者 ミ=ゴ
荒れ狂う嵐 イタカ
大怪鳥 シャンタク
破壊神 マグ=メヌエク
偉大なる種族 イース
氷点の炎 アフーム=ザー
生命の躍動 イホウンデー
父なる海 ダゴン
母なる海 ハイドラ
機械仕掛けの邪神 チクタクマン
悪意の風 ロイガーとツァール 
度し難き畜生 サーイティ
醜悪なる性 ウーツル=ヘーア
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