三 指令

文字数 1,735文字

 その日の夕刻。

「ジョー。4D映像探査波がここをスキャンしてる。あのAIマシンよ」
 クラリスが警告した。
 ジョーは相変らず、ドレッド商会三階執務室でソファーに座って、クラリスが探査するフォースバレーキャンプの4D映像を見ていた。
「了解した」
 ジョーはAIマシンの4D映像探査波を精神思考して、探査波を逆探査した。

 多重位相反転シールドした商会ビルの外部から、4D映像探査波が一階、二階へ、三階へ探査してゆく。
 全ての窓がロドニュウム弾に耐える積層防弾ガラスだ。ガラス積層部内にもシールドが内蔵されている。その窓外から4D映像探査波がジョーの手を探査している。

 ソファーに座るジョーは、右脚を左脚にのせて脚を組み、膝の上で左右の手の指を組んだ。これで、AIマシンは、左右の手の色の相異を納得するだろう・・・。
 そう考えながら、ジョーは4D映像を見つめた。


「ジョーを見つけたよ。三階にいるよ」
 フォースバレーキャンプのオフィスフロアに、PeJが投映する商会本部正面の4D映像が現れた。
 ドレッド商会ビル全体はシールドされている。ロドニュウム弾の直撃に耐える防弾ガラスの窓から、三階内部のソファーに深々と座るジョーが見える。
 左脚の上に右脚をのせて脚を組んだ膝の上で、指を組まれた左右の手は皮膚の色に違いがある。

 マリーはPeJに訊いた。
「シールドは多重位相反転シールドか?」 
「多重位相反転シールドだよ。
 シールドされててもジョーの思考記憶探査できるよ。
 J、どうすんの?」

「クラッシュの売買を誰が指示したか探査してくれ」とマリー。
「皇帝テレスの指示、としかわからないよ。
 何だ、これ。頭の中、カラッポだよ!」
 PeJが動きを止めて呆れている。

「ジョーは私を記憶してるか?」
 ジョーが私を記憶していないなら、ジョーの身体部位を再生した意味がない。
 状況はアシュロン商会本部ビルを破壊する前と同じだ・・・。
 マリーはそう思っている。

「ちょっとだけあるよ。Jに腕を再生された記憶が残ってる・・・」
「PeJが記録しているジョーの映像を、全部、ジョーに転移できるか」
 記憶の転写ではない。記憶4D映像を記憶連合野へ時空間スキップする記憶転移だ。
「うん、やってみるね・・・」

 しばらくすると、PeJが困ったようにゆっくり自転している。
「ねえ~。今までの記憶が蘇っちゃったよ~」
「その方が都合がいい。ジョーに、
『自分の記憶が操作されたから、もう誰にも操作はさせない』
 という記憶を植えつけて、記憶を操作されたままのジョーを演ずるようにさせるんだ」
 マリーはPeJにそう指示した。

「了解。Jが話を聞きに行くよ、と連絡しとくの?」とPeJ。
「事情聴取は明日にする。今までのジョーに戻れば、私との事を思うだろう」
 そう言って、マリーはオフィスにいるコンバットに指示する。
「アシュロン商会のバックに帝国政府か、帝国政府の裏組織が絡んでいるのがわかった。
 中心人物が誰かを探って、抹殺する。
 表向きは今までどおりクラッシュ撲滅だ。
 ユンガから情報を得てアシュロン商会のバックを聞きだせ!
 情報を聞いた相手は、情報内容にかかわらず我々の記憶を消去しろ!。
 バック組織に我々の動きを知られないためだ!」

 カールが皆に指示する。
「皆、バトルアーマーを整備しておけ!
 非常の場合、バトロイドに出動要請する。
 バトロイドは惑星ナブールのラプトからテクノロジーを奪って、惑星全土を石器時代にした。状況は常に滞りなく進行している。
 その証拠に、Jがこんなに成長してマリーになった。
 いやこんなに年を食っちまって、我々の伯母らしくなってきた」
 マリーを笑いの種にして、カールがにやけて皆を見ている。

 明日から我々も、精神共棲体のコンバットも、危険に身を晒すのを覚悟せねばならない。 今は嵐の前の静けさ、安堵のひとときだ。
 マリーやポール・カッターは妹や娘と最後の夜を過ごすだろう。
 何をしても、家族や仲間を失う悲しみが増えるのは避けようがない事実だ。
 何とかできないものか・・・。
マリーに精神共棲しているJはそう思った。

 マリーの精神共棲体、精神生命体ニオブのニューロイドJはたいした女だ、とジョーは思った。
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