そして黒は恋に落ちる (れ)

文字数 733文字

 あの日、僕がアイツと出会う前、僕は腹ペコだったから”縁側のある家”で飯にありつこうと久々にそこへ訪れていた。久しぶりのその家はなんだかいつもの静かな様子とは全然違くて、人が家の中でバタバタと騒々しく行き交っているようだった。いつもうまいものが入っている容器は空っぽで、家の中からはお墓と同じ臭いが漂ってきていた。耳を澄ますと、バタバタバタバタ騒がしい足音の他に、人のすすり泣く声も聞こえてくる。不安が僕の胸を締め付ける。

「あーーーーーーーお」

 ばあちゃん。あの皺くちゃな手で、撫でて落ち着かせてくれ。出てきてくれよ。願いを込めて鳴いた。けれど、縁側に出てきたのは、黒い服装を纏った知らない人間だった。
 そして僕は、不吉だと家を追い出された。

 結局飯にありつけないまま塀の下をテコテコと歩いていた時、辛気臭いアイツと出会ったのだった。そして僕はそのままアイツのねぐらに連れてかれ、今はそこで”くろ”と呼ばれて暮らしている。

 その辛気臭かったアイツは、でも最近は楽しそうにしている。夕方になると元気な声で――

「ただいま!」

 そう、こんな感じに帰ってくるようになった。丁度帰ってきたな。仕方ないから、迎えてやろう。そう思って僕が玄関に行くと……。

「お邪魔します」
「にゃぁお」

 なんとアイツは、年頃が同じくらいのおさげの女の子を連れてきていた。そしてその胸には白い猫が抱きかかえられている。

「にゃぁお」

 可愛い可愛い、白くふんわりとした猫だった。僕は固まる。アイツもカチコチになりながら、そいつらをねぐらに招き入れてる。なんてことを……。白い猫は床に降り、僕に近づいてきた。

「綺麗な黒色」

 白い猫は固まる僕にそう言った。
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