線香の香り (ひ・ほ)

文字数 483文字

とよねさんのコラボ「コラボで作る百物語2020『予感』」に参加させていただいたお話です。↓
――

 これは知り合いのMさんから聞いたお話です。

「ただいまー」

 Mさんが帰宅して自宅の玄関で靴を脱いでいると、ふと線香の香りが漂ってきたそうです。それは実家の仏壇の懐かしい香り。しかしMさんの家は最近建てた新しい家で、仏壇を置いていないんですって。Mさんは不思議に思いました。

「誰かお香焚いてる?」

 リビングに向かうと、先に帰っていた娘に尋ねます。

「何の話?」

 しかし娘は何の話か分からないようです。いつも通り携帯をいじって素っ気のない様子。その時――

LuLuLuLu……

 電話が鳴りました。

 母が亡くなった――

 それは急な訃報でした。

 Mさんの実家は東北地方のとある県にあるのですが、しかしMさんは結婚をして今は関東地方に家を構えています。

 2つの家には大変な距離がありました。けれどMさんは、この線香の香りはきっと母だ、と確信したそうです。

「母が会いに来てくれたんだ」

 そうMさんは涙を浮かべて語っていました。
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