第5談 ネタバレあらすじ&最初の感想
文字数 4,506文字
イギリス統治時代の1947年、インドのボンベイでカシミール系イスラム教徒の家庭に生まれた。14歳でイギリスに渡り、名門ラグビー校で教育を受け、ケンブリッジ大学に進学した。1964年にイギリス国籍取得。英語で執筆する作家。文学への貢献により、2007年にナイト爵を授与された。
【第1部前半】
この小説の一人称の語り手サリームは、1947年8月15日の真夜中きっかり、インド独立の瞬間に生まれた。サリームが生まれる32年前の1915年、インド北部のカシミールにあるスリナガルという湖畔の町で、ドイツに留学し医師となって帰国した青年アーダム・アジズが早朝の礼拝をささげる場面から物語は始まる。
アジズ医師は地主の娘ナシームと結婚する。アジズ医師はアーグラへ向かう旅の途中で1919年のアムリトサル事件に遭遇し、九死に一生を得た。
アジズ夫妻の間には長女アリア、次女ムムターズ、三女エメラルド、長男ハーニフ、次男ムスタファが生まれた。
1942年、分離独立を主張するイスラム連盟に反対して、自由イスラム会議を組織しようとした政治家ミアン・アブドゥラーが暗殺される。
ミアン・アブドゥラーとその後援者クーチ・ナヒーン・ラーニは、アジズ医師の友人だった。
ミアンが暗殺された後、彼の個人秘書ナディル・カーンをアジズ医師は自宅の地下室に匿う。
ムムターズはナディルと恋に落ち、地下室で秘密の結婚生活を2年間送るが、追手を恐れたナディルはムムターズと離婚して逃亡した。
【第1部後半】
ムムターズはアフマド・シナイと再婚し、アミナと改名してデリーで新しい生活を始める。
そのころ、狂信的な反ムスリム運動のラーヴァナ・ギャングによって、ムスリム経営の工場、商店、倉庫が次々と放火されていた。
皮革商人のアフマドも放火テロの被害に遭い、ボンベイへ移住することを決める。
インド独立に合わせて帰国するイギリス人ウィリアム・メスワルドから屋敷の一画を買い、シナイ夫妻はメスワルド屋敷で暮らし始める。
メスワルド屋敷にはかねてより芸人ウィー・ウィリー・ウィンキーとその妻ヴァニタが出入りしていた。
1947年8月15日の真夜中ちょうど、ナルリカル医師の産院でアミナはアフマドとの間に生まれた子を出産する。
その同時刻、産院にある貧民のための慈善病棟ではヴァニタがウィリアム・メスワルドとの不倫によって生まれた子を出産し、出血多量で命を落とした。
産院の助産婦メアリー・ペレイラは、アミナの産んだ赤ん坊とヴァニタの産んだ赤ん坊の名札をひそかにすり替えたのだった。
ヴァニタの産んだ赤ん坊はサリームと名付けられ、裕福なシナイ夫妻のもとで育つ。
一方、アミナの産んだ赤ん坊はシヴァと名付けられ、スラムに暮らすウィー・ウィリー・ウィンキーのもとで育った。
【第2部前半】
メアリー・ペレイラは産院を辞め、サリームの乳母としてシナイ家に仕えていた。
シナイ夫妻に長女ジャミラが生まれ、ブラス・モンキーというあだ名で呼ばれる。
アミナの別れた最初の夫ナディル・カーンは、カシム・カーンと名前を変え、インド共産党の公認候補となっていた。
母アミナと元夫カシムの秘密の関係を知ったこと、鼻炎による激痛、父アフマドから殴打されて左耳が聴こえなくなったこと、初恋の少女エヴィー・ヴァーンズとの関わりなどさまざまな出来事を経て、サリームは超自然的な能力に目覚めていく。
10歳になったサリームは、インド各地の自分と同日に生まれた581人の子供たちをテレパシーでつなぎ、「真夜中の子供たち会議」を組織した。
その「真夜中の子供たち」の中には魔女パールヴァティとシヴァがいた。
学校で級友同士の悪ふざけから、サリームの中指が切断される事故が起こる。手術の際、輸血にそなえて彼と両親の血液型が検査され、サリームの出自に疑惑が生じる結果となった。
アミナは夫アフマドから不倫を疑われ、退院後にサリームはハーニフ叔父の家に預けられることになった。
【第2部中盤】
映画監督ハーニフ叔父の妻であり女優のピアは、夫の後援者である裕福なホミ・キャトラックと不倫していた。
ホミは海軍大佐サバルマティの妻リラとも不倫関係にあり、サリームは密告の手紙をサバルマティに送る。
サバルマティは不倫の現場に踏み込み、ホミと妻リラを銃撃した。ホミが死に、資金援助の途絶えたハーニフ叔父は自殺する。
1958年、ハーニフ叔父の服喪の期間中、メアリー・ペレイラが自らの罪を告白した。
アミナはサリームとジャミラを連れてパキスタンへ渡ることを決め、アフマドだけがメスワルド屋敷に残った。
サリームたちは、ズルフィカル将軍の妻であるエメラルド叔母の屋敷に居候することになった。
パキスタンに移住してすぐ、軍総司令官アユーブ・カーンによる軍事クーデターが起き、イスカンダル・ミルザー大統領は亡命を余儀なくされ、アユーブ・カーンが大統領の地位に就いた。
4年後、アフマドが心臓病に倒れたことから、アミナはインドに帰国して夫の看病に当たる。アフマドの病が癒えるとともに夫婦関係も修復し、アフマドもパキスタン移住を決意する。
【第2部後半】
祖父アーダム・アジズの死後、「修道院長」とあだ名される祖母ナシームもパキスタンへ移住し、未亡人となったピアも同行した。
パキスタンのカラチではアリア伯母が学校を経営していた。カラチに移住したアフマドはタオル製造工場を経営し、アミナはアフマドとの間に第3子を身ごもる。
ジャミラは美声を認められ、歌手としてデビューし、国民的アイドルの地位を得る。
サリームは血のつながらない妹ジャミラに対する恋心に悩み、妹に打ち明けるが、拒絶される。
1965年、第2次印パ戦争が起きる。9月22日の夜、パキスタンの都市が空爆を受け、ラワルピンディに投下された爆弾は祖母とピア、エメラルド叔母、いとこのザファルの命を奪った。同じくカラチに投下された爆弾はアリア伯母、両親、母の腹の子の命を奪った。
歌手として慰問活動中のジャミラは無事だったが、サリームは爆風に吹き飛ばされ、記憶喪失になる。
1970年、パキスタンで総選挙が実施され、東パキスタンのムジブル・ラーマン率いるラワミ連盟が大勝する。これを不服としたパキスタン政府(西パキスタン)は戒厳令を発し、東パキスタンの独立運動を弾圧したため、バングラデシュ独立戦争(第3次印パ戦争)に発展した。
そのころ、記憶喪失のサリームは「ブッダ」というあだ名で呼ばれ、政治犯を追跡し逮捕する「犬小隊」の任務に就いていた。犬小隊はムジブル・ラーマンの隠れ家も嗅ぎ当てる。
地方で追跡を続ける犬小隊はスンダルバンの密林に迷い込む。「ブッダ」は蛇に噛まれて記憶を取り戻すが、自分の名前だけは思い出せなかった。
密林で7か月過ごした犬小隊は1971年10月に密林を脱出し、本隊へ戻ろうと放浪するうちに、「膝」を武器にするインド軍兵士シヴァの噂を聞く。
12月にバングラデシュ独立が達成される。魔女パールヴァティがダッカで主人公を発見し、どうしても思い出せなかったサリームという名前を取り戻す。
サリームはパールヴァティの手助けでインドに密入国し、デリーにあるマジシャンたちの暮らすスラムに匿われたのだった。
デリーではムスタファ叔父が上級官僚となっていた。家族のほぼ全員が死に、ジャミラも行方不明であると知り、サリームは叔父の家で420日間の喪に服する。
スラムへと戻ったサリームはパールヴァティから結婚を迫られるが、妹への恋心を捨てきれず、不能だと嘘をついて結婚を拒絶する。
そのころ戦争英雄となったシヴァ少佐は、上流階級の婦人たちと不倫を重ねていた。
パールヴァティはシヴァを魔術で呼び寄せ、シヴァの子を身ごもる。結婚しない口実を無効にされ、サリームはパールヴァティとの結婚を承諾した。
パールヴァティはサリームとの結婚を機にイスラム教に改宗し、ライラと改名した。
1975年6月25日の真夜中ちょうど、ライラは長男アーダムを出産した。その同時刻にインドは非常事態に突入する。
1976年、市内美化計画のもと軍隊が投入されスラムは消滅し、ライラも殺された。サリームはベナレスへ連行され、強制的に断種手術を施される。
サリームは生きのびた蛇使いピクチャー・シンと息子アーダムと再会し、ボンベイへ向かう。
瓶詰めチャツネが記憶にある味だと気づき、ラベルの住所を頼りにブラガンザ・ピクルス工場を訪ねた。
工場の経営者ブラガンザ夫人は、かつての乳母メアリー・ペレイラだった。
サリームはメアリーの罪をゆるす。
サリームが31歳になる誕生日に、現在の恋人パドマとの結婚式を迎える場面で物語は終わる。【完】
つまり、作者が語りたいことが山ほどあるということです。
これだけテーマを詰め込むと普通は破綻するものですが、最後の終わり方を含めてよく出来ています。
傑作だと思いました!
引用:
サルマン・ラシュディ『真夜中の子供たち』(寺門泰彦訳、岩波文庫、上・下巻)より(ログインが必要です)