第4話 さみしさ
文字数 896文字
未亜は私を呼ぶ時に「須藤先生」などとは言わない。最初の頃は彼女なりに照れ臭ささを隠しているのではないかと思っていたが、時間が経つに連れて、そうではないということがわかってきた。
彼女は人のことを正当に見ることはないのだ。彼女からすれば、担任なんてものは、仕事で自分のクラスを担当しているただの男であった。
未亜はミシンを相手にティッシュケースを作っていた。
家庭科の授業は女の専科の先生が担当している。本来ならその専科が担当しているのだから、私はいわゆる「空き時間」で教室や職員室で自分の仕事ができる時間であるはずだ。
だが、その中年の女教師は自分一人で、このクラスの子たちを相手にして授業をする自信がないから、担任の私にも授業にいてほしいと言う。
教えなくてもいい、教室にいるだけでいいと言っていたはずだか、その場にいれば、子どもたちの様子によっては見て動かなければならない。
「みきせん」
未亜に呼ばれて未亜のミシン台のところへ行くと、未亜の作っているティッシュケースのミシンの縫い目はがたがたに曲がっていた。
「みきせん、この糸とって」
普段の授業では、全くやる気を見せない未亜が、不器用なりに学習に参加していた。
「自分でやれよ」
他の子だったらそう言って突き放すのだが、未亜は特別だった。私はなんとか
彼女との関係性を作っておきたかったのだ。
普段の未亜との関係からすれば絶対に受け入れられるような要求ではない。悪態ばかりつく未亜の手助けをするなんて人間としてどうかとも思う。
私が未亜の裁縫セットの中にあった糸切りバサミで縫い目をひとつひとつ切っていくのを、未亜は見ていた。
ようやく全部糸を抜き取ると未亜はお礼を言うわけでもなく、私になんか用はない、といったふうにまたミシンを動かし出した。
「このケースは誰かに贈るのかな」
私はその場の悪い雰囲気を変えようと思って声をかけると未亜は、手を止めて私を見た。
「やる奴なんていない」
そう言って、普段見せている顔つきにかわった。
「みきせんには関係ないだろ」
未亜のいつもの悪態だ。
「なんか影がある子だ」
私は未亜のミシン操作を見守っていた。
彼女は人のことを正当に見ることはないのだ。彼女からすれば、担任なんてものは、仕事で自分のクラスを担当しているただの男であった。
未亜はミシンを相手にティッシュケースを作っていた。
家庭科の授業は女の専科の先生が担当している。本来ならその専科が担当しているのだから、私はいわゆる「空き時間」で教室や職員室で自分の仕事ができる時間であるはずだ。
だが、その中年の女教師は自分一人で、このクラスの子たちを相手にして授業をする自信がないから、担任の私にも授業にいてほしいと言う。
教えなくてもいい、教室にいるだけでいいと言っていたはずだか、その場にいれば、子どもたちの様子によっては見て動かなければならない。
「みきせん」
未亜に呼ばれて未亜のミシン台のところへ行くと、未亜の作っているティッシュケースのミシンの縫い目はがたがたに曲がっていた。
「みきせん、この糸とって」
普段の授業では、全くやる気を見せない未亜が、不器用なりに学習に参加していた。
「自分でやれよ」
他の子だったらそう言って突き放すのだが、未亜は特別だった。私はなんとか
彼女との関係性を作っておきたかったのだ。
普段の未亜との関係からすれば絶対に受け入れられるような要求ではない。悪態ばかりつく未亜の手助けをするなんて人間としてどうかとも思う。
私が未亜の裁縫セットの中にあった糸切りバサミで縫い目をひとつひとつ切っていくのを、未亜は見ていた。
ようやく全部糸を抜き取ると未亜はお礼を言うわけでもなく、私になんか用はない、といったふうにまたミシンを動かし出した。
「このケースは誰かに贈るのかな」
私はその場の悪い雰囲気を変えようと思って声をかけると未亜は、手を止めて私を見た。
「やる奴なんていない」
そう言って、普段見せている顔つきにかわった。
「みきせんには関係ないだろ」
未亜のいつもの悪態だ。
「なんか影がある子だ」
私は未亜のミシン操作を見守っていた。