十六 博打教授
文字数 1,296文字
藤代は座り直すと大声で女房と手下を呼んだ。
「おおいっ、皆の衆、藤五郎が、遊びで丁半をやりたいと言うておるぞおっ。
お綾 っ。茶菓子を、有りったけ、持ってきてくれっ」
藤代は笑顔になった。饅頭や落雁など茶菓子を、掛札代りにする気だ。
藤代の女房の綾が笑顔で座敷に現われた。山積みの茶菓子が載った盆を持っている。背後には七人の手下が居る。
「お前さん。藤五郎さん。上座へ移っておくれ」
「あいよ。上座へ移ろう」
「わかった」
藤五郎はそう言って藤代と共に座敷の上座に立った。
「ささ、皆、賭場を作っとくれっ」
綾がそう言うと、綾の背後に居る手下たちは座布団を片づけ、持ってきた餅の延し板を座敷の真ん中に置き、その上に大きな晒布を敷いて簡易の賭場にした。
そして、座布団を上座に二枚、下座に一枚敷き、下座の賭場に山積みの茶菓子が載った盆と柄の長い杓子と二つの賽と、竹籤で細かに編んだ竹駕籠の賽壷を置いた。
「さあ、皆、座っておくれ。お前さんたちも座っておくれよ」
そう言って綾は下座に座り、
「煎餅(三枚で一文)は百文の掛札代わりだよ。。
饅頭(一個三文)は二百文の掛札だよ。憶えとくれよ」
煎餅と饅頭を賭場に並べ、それらを柄の長い杓子で賭場の上を滑らせて、手下たちと藤五郎と藤五郎に配り始めた。
一人分の掛札は、二百文の掛札代りの饅頭五個と、百文の掛札代わりの煎餅十枚。
賭場の総勢は藤五郎と藤代と、女房と手下七人だ。
胴元は藤代の女房の綾。壷振りは藤代の従妹の藤裳 だ。
準備が整うと藤代が説明する。
準備が整うと藤代が説明する。
「賭場に入ると客は得物を全て胴元の丁場に預け、銭を百文か二百文の掛札に換える。そして、掛札を持って賭場に座り、丁半博打に掛札を賭ける。
知っての通り、丁は賽の目の合計が偶数。半は奇数だ」
「うむ、それで勝つにはどうする。手立てがあるのだろう」
藤五郎は掛札代わりの饅頭と煎餅を見ながら訊いた。
「手の内を知ってるのか」と藤代。
藤五郎が小声になった。
「それとなく、噂は聞いてる・・・。
手の内を、教えてくれ」
「わかった。
賽に細工がしてあったり、賽を振る壷と呼ばれる小さな竹駕籠に細工がしてあったりで、壷振りは胴元の指示で微妙に壷を動かして、賽の目を変えるのが常だ・・・」
「それでは、賭けにならぬな。
壷振りの手元を見れば、何をしたか見破れるではないか・・・」
「そうでもない。壷振りは実に巧妙に手を動かすから、客にはわからぬ」
「ならば、どうやって賭けるのだ」
「胴元は、常に負けぬようにする。たとえば賭場の客の多くが丁に賭けたら、壷振りは壷を動かして賽の目の合計を半にする。
丁半どちらに多く賭けるかを見極め、その逆に賭ければいいんだ」
「そうは言っても、壷の中が丁半のどちらか分からぬぞ」
「賽はいつも、丁か半のになるように細工がしてあるのさ・・・」
藤代はそう言って藤代の従妹の藤裳に目配せした。
藤裳は二つの賽を摘まんで賭場に放った。
出た目の合計は丁、偶数だった。
もう一度、二つの賽を放った。
また、出た目の合計は丁、偶数だった。
藤代は藤五郎を見て笑った。
「こう言うことさ」
「おおいっ、皆の衆、藤五郎が、遊びで丁半をやりたいと言うておるぞおっ。
お
藤代は笑顔になった。饅頭や落雁など茶菓子を、掛札代りにする気だ。
藤代の女房の綾が笑顔で座敷に現われた。山積みの茶菓子が載った盆を持っている。背後には七人の手下が居る。
「お前さん。藤五郎さん。上座へ移っておくれ」
「あいよ。上座へ移ろう」
「わかった」
藤五郎はそう言って藤代と共に座敷の上座に立った。
「ささ、皆、賭場を作っとくれっ」
綾がそう言うと、綾の背後に居る手下たちは座布団を片づけ、持ってきた餅の延し板を座敷の真ん中に置き、その上に大きな晒布を敷いて簡易の賭場にした。
そして、座布団を上座に二枚、下座に一枚敷き、下座の賭場に山積みの茶菓子が載った盆と柄の長い杓子と二つの賽と、竹籤で細かに編んだ竹駕籠の賽壷を置いた。
「さあ、皆、座っておくれ。お前さんたちも座っておくれよ」
そう言って綾は下座に座り、
「煎餅(三枚で一文)は百文の掛札代わりだよ。。
饅頭(一個三文)は二百文の掛札だよ。憶えとくれよ」
煎餅と饅頭を賭場に並べ、それらを柄の長い杓子で賭場の上を滑らせて、手下たちと藤五郎と藤五郎に配り始めた。
一人分の掛札は、二百文の掛札代りの饅頭五個と、百文の掛札代わりの煎餅十枚。
賭場の総勢は藤五郎と藤代と、女房と手下七人だ。
胴元は藤代の女房の綾。壷振りは藤代の従妹の
準備が整うと藤代が説明する。
準備が整うと藤代が説明する。
「賭場に入ると客は得物を全て胴元の丁場に預け、銭を百文か二百文の掛札に換える。そして、掛札を持って賭場に座り、丁半博打に掛札を賭ける。
知っての通り、丁は賽の目の合計が偶数。半は奇数だ」
「うむ、それで勝つにはどうする。手立てがあるのだろう」
藤五郎は掛札代わりの饅頭と煎餅を見ながら訊いた。
「手の内を知ってるのか」と藤代。
藤五郎が小声になった。
「それとなく、噂は聞いてる・・・。
手の内を、教えてくれ」
「わかった。
賽に細工がしてあったり、賽を振る壷と呼ばれる小さな竹駕籠に細工がしてあったりで、壷振りは胴元の指示で微妙に壷を動かして、賽の目を変えるのが常だ・・・」
「それでは、賭けにならぬな。
壷振りの手元を見れば、何をしたか見破れるではないか・・・」
「そうでもない。壷振りは実に巧妙に手を動かすから、客にはわからぬ」
「ならば、どうやって賭けるのだ」
「胴元は、常に負けぬようにする。たとえば賭場の客の多くが丁に賭けたら、壷振りは壷を動かして賽の目の合計を半にする。
丁半どちらに多く賭けるかを見極め、その逆に賭ければいいんだ」
「そうは言っても、壷の中が丁半のどちらか分からぬぞ」
「賽はいつも、丁か半のになるように細工がしてあるのさ・・・」
藤代はそう言って藤代の従妹の藤裳に目配せした。
藤裳は二つの賽を摘まんで賭場に放った。
出た目の合計は丁、偶数だった。
もう一度、二つの賽を放った。
また、出た目の合計は丁、偶数だった。
藤代は藤五郎を見て笑った。
「こう言うことさ」