源義経黄金伝説第7話改定版

文字数 2,043文字

源義経黄金伝説■第7回★弁慶と牛若の争いを見て「争い事は、武士たちにお 任せなるのだ」源空、後の世にいう法然は、牛若につげる。

源義経黄金伝説■第7回★

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

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言うが早いか、弁慶は、背中から引き抜いた薙刀を一閃していた。



普通の人間ならば、真っ二つである。

が、弁慶の薙刀には、手ごたえがない。

目の前にあるはずの、血まみれの体も残ってはいない。

「はて、面妖な」

「ふふっ、ここだ、ここだ」

 弁慶の後ろから声が聞こえて来る。

すばやく、背後を見返すと、橋げたのうえにふわりと牛若が乗っている。

まるで、重さがない鳥のように、それは乗っているのだ。



「貴様は、飛ぶ鳥か」

「ふふう、そうかも知れぬぞ」

不敵な笑みが、牛若の顔から漏れている。

「鞍馬山の鳥かもな」

 その声音は、完全に人を食っている。



牛若は、自分の力を他人に見せるのが、うれしく、楽しいのだ。

「お前は、平氏のまわし者か」毅然と、牛若が言う。

「何を言う。平氏など、物の数ではない」

そう答えるが早いか、弁慶は橋を蹴って、欄干のうえに薙刀を数振りする。



その刀の動きは、常人の目には捕らえられぬ。

とはいえ、明かりなどない夜中である。誰もそれには気付かぬ。

ただ、野犬が、恐るべき力の争いに驚き、鳴き声をあげている。



「どうした、弁慶。この私を捕まえることができぬか」



にやりと笑う牛若の顔に、弁慶は、憎しみを倍加させる。



 西行と鬼一法眼は橋の影からのぞいている。



「どうだ、遮那王様の動き」



「よかろう。あのように成長しておられるならば、奥州の秀衡殿の手元にお送りしても、十分役にたつだろう」。

「秀衡殿もお喜びであろう」二人笑い会う。

「西行殿、後はお任せるぞ」



「何をこしゃくな」

が、弁慶の額には、うっすらと汗が浮かんでいた。

「弁慶、止めるのじゃ」

突然異形の老人が、弁慶の前に姿を現し、争いを止めようとした。

強い、この男は、

弁慶はこの男を見て毛穴がひゅつと閉じるの感じた。



「なぜだ、鬼一殿。この若造を殺せというたは、お主ではないのか」

弁慶はこの老人にくってかかる。

「もうよいのだ。お主もこの若者の力がわかったであろう」

「そうであればこそ、なおさら許せぬ。俺の力を見せねば、気が済まぬ」



「そうだ、鬼一。止めてくださるな。この大男に負けたと言わせるまでは、

私も気が済まぬ」欄干の上にいる牛若が、答える。

「こやつ、いわしておけば」

背中より大槌を引き抜いて、弁慶は打ってかかる。

ズーンと大きな音が響き、バラバラと橋げたが川中に崩れ落ちる。

「おお、何をする。橋を壊すつもりか」



「橋が壊れるが早いか、お主が死ぬのが早いか」

 騒ぎを聞き付けた検非違使たちが六波羅の方から駆けつけてくる。

「いかぬ」

弁慶はそれにきを取られる。

「ぐぅ」

思わず弁慶が叫び、気を失う。牛若の高下駄が蹴りを弁慶の天頂に加えてい

た。「やれやれ」





鬼一は橋のしたに用意してあった小舟に弁慶の体を隠し、鴨川を下った。

「牛若殿、もう少しお手柔らかにお願いいたすぞ」

「戦いの舞台を移そう」

「こわっぱ、どこに逃げる。怖じけづいたか」

息を吹き返し、苦しい息の下から弁慶が叫ぶ。



「何を言う。お主がそう暴れるから、そら平家の郎党が現れたではないか」



平家の屋敷に点々と灯が灯り、その灯が五条の橋を目がけてくる。

かなりの人数のようだ。牛若が跳躍する。

「おのれ、何処へ」弁慶は上を眺め、叫んだ。



「頭の悪い坊主。この京都で晴れ舞台と言えばわかろうが…」

声は天から響いた。

「くっ、あそこか。わ、わかったぞ。約束を違えるなよ。半刻後じゃ、よい

な」遠方で見ていた、西行と鬼一法眼はお互いに顔を見合わせていた。

「いかん、あやつら、まさか…」



「そうじゃ、あの寺だな」



二人は疾風となり、東山を目指している。四人が目指すは、坂上田村麻呂公の寺、清水寺である。



牛若は、弁慶の前で、清水寺の舞台で、ひらりひらりと舞っている。

「ふっ、弁慶、どうだい。貴公もこの欄干の上で、京都の町を見てゆかぬ

か。よう見えるぞ。特に平家屋敷がな。おっと、貴公の体では、ちと無理かもな」



「くそっ、口のへらぬこわっぱだ。そのようなこと、俺にもできるわ」



「弁慶、止めておけ。お主の重さ、この清水寺の舞台を沈ませるぞ」



「牛若殿、もう止めておきなされ。このお方もお疲れなのだ。お主の武勇、充分

私も見せてもろうたぞ」

いつも間にかその場所に源空も現れている。



「争い事は、武士たちにお 任せなるのだ」

源空の頭の中には、子供のころの自らの家の惨劇が埋まっている。



 源空、後の世にいう法然は、この後、京都市中で僧坊を営み、後白河法皇、九条兼実らの知遇を得ることになる。



 後に鎌倉仏教と呼ばれることになる、新しい日本仏教は、この源平争乱という武者革命と時を同じくしつつ起こった「宗教改革」だったのである。この時の源空には、まだその片鱗は見えない。



続く2016改訂

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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