源義経黄金伝説第19話

文字数 2,180文字

源義経黄金伝説■第19回■源頼朝と鎌倉で話し合う西行法師は、奈良東大寺での勧進職であり、昔からの高野山聖以来の友人、重源との会話を思い出している。

源義経黄金伝説■第19回

 西行は、奥州藤原氏のことをしゃべり終わると、急に無口になった。

頼朝は、話題を変えた。歌曲音舞、そして弓道のことなどである。頼朝はこの伊豆に住みながら、いつも京都のあのきらびやかな文化を、生活を恋い焦がれていた。

 

武士という立場にありながら、京の文化を慈しみ愛していた。それゆえ、その京の文化に取り込まれることを恐れていた。



 義経は、京の文化、雰囲気という、得も知れぬものに取り込まれ、兄頼朝に逆らったのだった。同じように義経より先に都に入った義仲も、京都という毒に当てられて死んだ口だった。



 京都は桓武帝以来、霊的都市であった。



藤原道長のときの安倍晴明を始祖とする土御門家が陰陽師として勢力を張っていた。

 京のことを懐かしむ頼朝に、西行は佐藤家に伝わる弓馬の術などを詳しく述べていた。これを語る西行は、本当に楽しげである。



 鎌倉幕府の史書『吾妻鏡あずまかがみ』には西行と頼朝、夜をあかして話し合ったとある』



西行の頭の中に、急に奈良での重源ちょうげんとの会話が思いおこしていた。



一一八〇年の平家による南都焼き打ちにより、東大寺及び大仏は焼け落ちていた。



都の人々は、平家の横暴を憂える。また、貴族は、聖武帝以来の東大寺を焼き打ちする、平家、武家の所業が人間以外の動物に思えた。また、自分達、貴族に危機が及んでいると考えざるを得なかった。



 東大寺の大仏は硝煙の中、すぐに再建に着工され、すでに大仏は開眼供養が一一八五年、後白河法皇の手で、行われていた。



大仏を囲う仮家屋や、回りの興福寺を中心とする堂宇の修復が急がれていた。今、南都は立て続く建築物が現れ、ある種の気に満ち満ちている。



 西行は東大寺焼け跡にある仮建築物にいる重源(東大寺勧進僧)を訪ねている。

重源は齢六十五才であったが、精力的に各地を遊説し、東大寺勧進を行っていた。また全国に散らばらせている勧進聖から、諸国の様子を手にとるように得ていた。



 勧進聖は、当時の企業家である。技術集団を引き連れ、資材を集め、資金も集める。勧進の場合、費用のために半分、残りの半分は聖の手元に入る。



 西行は、佐藤義清という武士であった頃は、鳥羽院の北面の武士であった。



 西行の草庵は、鞍馬、嵯峨などで、草庵生活を送っていた。草庵といっても仙人のように山奥に一人孤独に住む訳ではなく、聖の住む位置はほぼ決まっていた。そして藤原家を縁とする寺塔が立て並んでいる。



 また、難行苦行の生活をするのではない。政事の流れから外れて、静かに物事を考えるのである。日々の方便については、佐藤家は藤原家の分家であり、大豪族であり、日々の心配はないのだ。



 数日前、伊勢の庵に重源の使いの者が訪ねてきて、ぜひ東大寺再建の様子を見に来てほしいというのだ。



若い頃、高野山の聖時代に知り合った二人だったが、すでに重源は二度、中国の宋に渡って、建築土木の技術を習得して帰国していた。



「重源殿、お久しぶりでございます。このたびの大勧進抜擢、誠に祝着至極でございます」



「おお、これは西行殿。わざわざ伊勢から奈良まで御足労をおかけいたしました。実はお願いがございます。さてさて、西行殿の高名にすがりたいのです」



「はて、それは……」



「奥州に勧進に行っていただきたいのです。奥州は遠く聖武帝しょうむていの時代より、黄金の産地。できますれば、黄金をこの東大寺のために調達いただけまいか。平泉は黄金の仏教地と聞き及びます。もし、藤原氏から、黄金が手に入りましょう」



 重源は、西行と奥州藤原氏とのかかわりあいを知っていた。

話の出所は後白河法皇に違いなかった。



 時期が時期だ。



奥州へ、それは朝廷から藤原氏への意向を伝えるために違いない。思ったより大きい仕事だ。が、これも私を信じておられるゆえんか。



私の最後の一働きになるかもしれん。



「それと、これは平泉におられる方々への手土産です」



「何でござりますかな。重源殿のことでございますから」

「これは…」 鎌倉の絵図である。



「ありがたく頂戴いたします」 西行の顔色は変わっている。

相手は、当代希代の建築家・都市建築家の重源である。



「あの方の役に立てばよろしいですが」

「役に立ちますとも。では、重源様、私にあのまちをよく見て参れというわけですな」



「そうです。その鎌倉の様子を、詳しく書状にしたためてください。この重源が、いろいろな技者と語らって、新たな絵図をお作りしましょう」



「ありがとうございます」

「よろしいか、重源がかようにするは、京都の法皇様のためにでございます」



西行は、重源がさりげなく奥州の秀衡たちに、自分の腕前を披露しようとしていることに気がついている。



西行が去ったあと、重源に雑色ぞうしきが話しかける。



「この御時世でございます。西行様のため、「東大寺闇法師」を護衛に付けた方がよろしいのではございませんか」



「おう、よい考えです。誰か「東大寺闇法師」の中で心当たりの者はおりますか」



「十蔵じゅうぞうが、いま比叡の山から降りてきております」

「わかりました。ちょうどよい。十蔵を呼んでください」



続く2016改訂

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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