三答制(開示)

文字数 582文字

 無月の水 三答制の一
 三つの凶器は犯人がアリバイを誤認させるために用意した偽物である。容疑者のなかで佐々木の木刀を剣術道場から盗み出し、偽の凶器として用意できたのは、瑞木新七しかいない。ゆえに瑞木が犯人となる。

 無月の水 三答制の二
 三人を殺した凶器には氷が使われていた。葉月に氷を用意できた人物は専門職の者にかぎられる。容疑者の四人のなかで、氷を扱う仕事にかかわっていた人物は瑞木新七しかいない。よって、氷屋の仕事をしていた瑞木新七が犯人となる。

 無月の水 三答制の三
 日食時の殺人を実行するには、正午に土倉へと行ける人物にかぎられる。容疑者のなかで、当該時刻の土倉に来ていた人物は瑞木新七しかいない。ゆえに瑞木新七が犯人となる。

 正答制①
 犯人は阿片栽培の秘密に気がつくことのできた人物である。
 しかも、犯人は蛇崩池の氾濫によって、栽培場所ごと破壊しようとしていた。書院の地下に侵入し、芥子を目撃しなければ、正確な場所まではわからないはずである。容疑者の四人のうち、事件が起きるまえ、自由に歩きまわっていた者は、女中の経子と水屋の瑞木だけである。
 経子は書院の立ちいりを強く禁じられていた。瑞木は水を補充したあと、だれもつけずに、かえっていた。つまり、作中の描写としては、瑞木だけが書院へと潜入することが可能だったとわかる。ゆえに、水屋の瑞木新七が疑わしい。
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登場人物紹介


未堂棟青人……関東取締出役の役人であり、このシリーズの解き手である。八州廻りとも特別同心とも呼ばれている。徳川幕府から警察的な権限を与えられており、殺人事件の捜査、下手人の逮捕を関東全域で行っている。未堂棟家は武士階級のなかでも、とくに地位が高く、ほんらいは関東取締出役のような仕事をする必要はないのだが、本人のたっての希望により、この仕事に就いている。未堂棟家の計らいもあり、武家身分に対しても、厳しい捜査を可能としている。未堂棟は幼いころに、頭を強く打っており、体調は万全ではない。作中では左目の開閉が進むにつれて、全盛期の姿をとりもどしていく。覚醒前に伏線を集め、覚醒後に回収する。珍しい探偵構成を有した解き手である。




別府卯吉……未堂棟と同じく、関東取締出役に就いている。解き手の未堂棟に対して、別府は助手役である。別府の父親は未堂棟家に仕えており、ふたりは対等な友人として育った。未堂棟が頭を打ったとき、別府はすぐにそばにおり、大怪我の責任を感じている。そのせいか、覚醒前の未堂棟に対して、過保護となっている。八州廻りの仕事は、未堂棟のリハビリも兼ねている。そのいっぽうで、危険な目に合わせたくないと思っている。未堂棟に負担がかからないように、積極的に解決へと取り組む。意識的に、強い口調を選んでいるが、ときに、ほんらいの優しさがあらわれる。




瑞木新七……蛇崩町を中心に水屋の商売を行っている。代々の水屋である。御家人や旗本とも商売をしている。葉月に水だけではなく、氷をも売ることで、高い収入をえている。大村家にも飲み水を売っていた。作間藤三郎の甥にあたる。蛇崩町に強い愛着をもっている。



炊馬経子……作間藤三郎の遠縁だが、藤三郎のあとに、水番人の仕事に就きたいがために、彼と親しくしていた。しかし、大村昌村に藤三郎を殺害され、彼女の計画はご破算となる。経子の生活は、一層、困窮していた。現在は大村家の女中となっている。




作間政信……作間藤三郎の義理の弟にあたる。蛇崩町の周囲にある田園は、政信の手によるものである。藤三郎を殺害されたあと、大村家に殴りこみ、斬りつけられたことがある。身体が不自由となっていた。義兄を喪った精神的衝撃はおおきく、さいきんは、賭博に溺れている。




上野左衛門……作間藤三郎の従兄弟であり、蛇崩町にある万屋の主人である。日本産の物品だけではなく、どこからか仕入れた大陸産の物品も置いてある。大村昌村が夜中、上野とたびたび、密会しているところを目撃されている。大村家のほうは上野と親しくしていることを隠したがっている。



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