幻想に舞う白い花
文字数 674文字
現実にかえる。
あたしの前には、年輪を刻んで大樹となったフロールの木と、隣にはセヴィリヤ白神官がいた。
ルーシャスは生涯、結婚もせず、子供ももうけなかった。だから、セヴィリヤはルーシャスの直系の子孫というわけではない。
それでも同じ家系だから、面差しが似ているところがあった。
当代のセヴィリヤ白神官に語ったのは、中央暖房装置の設置に関わる部分だけにした。
あたしと彼の関係は、あたしだけのこころにしまっておいて。
「やはりルーシャスさまは立派なお方だったのですね」
「そうじゃな」
セヴィリヤ白神官の感想にあたしはすこし笑いそうになる。
そして、花見自体を白神官と冬主の公式行事にしたことで、あたしは今も年に一度、そのときの白神官とこの花を見る。
でも、フロールの大樹の前で白い花を見ていると、やはりルーシャスを思いだす。
のう、ルーシャス。
いまは、中央暖房装置は完成して、作動してからだいぶたつ。
温室栽培や共同浴場などが実際にできたし、人口も少し増えた。
でも、フロールの木がここにあるのに、おぬしがいないのが、切ないのう。
人間の中には、ただ一人をとても深く想うものがいる。
なぜ、それほどまでに一人を想えるのだろう。
短い一生をかけて。
いや、短いからか?
ルーシャスはどんな人間よりも深くふかくあたしを愛してくれた。
その想いはあたしのこころに消えないあとをきざみつけて。
幻のような、はかなく白い花が舞うなかに、おぬしの少し不遜な笑顔がよみがえる。
せめて一目だけでも、もう一度あいたいものよ。
のう、ルーシャスよ――
冬編 おわり
あたしの前には、年輪を刻んで大樹となったフロールの木と、隣にはセヴィリヤ白神官がいた。
ルーシャスは生涯、結婚もせず、子供ももうけなかった。だから、セヴィリヤはルーシャスの直系の子孫というわけではない。
それでも同じ家系だから、面差しが似ているところがあった。
当代のセヴィリヤ白神官に語ったのは、中央暖房装置の設置に関わる部分だけにした。
あたしと彼の関係は、あたしだけのこころにしまっておいて。
「やはりルーシャスさまは立派なお方だったのですね」
「そうじゃな」
セヴィリヤ白神官の感想にあたしはすこし笑いそうになる。
そして、花見自体を白神官と冬主の公式行事にしたことで、あたしは今も年に一度、そのときの白神官とこの花を見る。
でも、フロールの大樹の前で白い花を見ていると、やはりルーシャスを思いだす。
のう、ルーシャス。
いまは、中央暖房装置は完成して、作動してからだいぶたつ。
温室栽培や共同浴場などが実際にできたし、人口も少し増えた。
でも、フロールの木がここにあるのに、おぬしがいないのが、切ないのう。
人間の中には、ただ一人をとても深く想うものがいる。
なぜ、それほどまでに一人を想えるのだろう。
短い一生をかけて。
いや、短いからか?
ルーシャスはどんな人間よりも深くふかくあたしを愛してくれた。
その想いはあたしのこころに消えないあとをきざみつけて。
幻のような、はかなく白い花が舞うなかに、おぬしの少し不遜な笑顔がよみがえる。
せめて一目だけでも、もう一度あいたいものよ。
のう、ルーシャスよ――
冬編 おわり