文字数 700文字

    

 シカルが建物に戻ろうとすると、入れ違いに姪のエバが出て来た。

「彼ならもう行ったぞ。西の森には戻らないと言っていた。水場を清めてから、妹と一緒に別の安全な場所へ移動すると」

「そう、ああ、叔父さん、その件に関しては私も色々言いたいけれど、呼び出しが来て急いでいるから、また今度」

「こんな遅くにか」

「忙しいのよ、頼りにしてくれる人が多いの、こんな私でも。書記の若い子には嫌みを言われたけれどね」

「ジョシュとリッカの件は特殊だった。お前は頑張り屋だ、よくやっているよ」 

「…………」

「今日は遅くなるのか?」

「中央病院からの呼び出しよ。例の水溜まりに転ばされた子供の母親が、診断書を取りに医局に行ったんだけれど、待っている間にその子、階段から落ちて怪我をしたらしいの。
 それで母親が激昂して病院を訴えるとか騒いでいるから、中立の私が子供のケアをしに行くの」

「…………もしかして母親に、病院へ行って診断書を取っておけとアドバイスしたのは、お前か?」

「そうよ、悪い?」

「いや、一番のMVPだ」

「??」


   ***


 取り調べの部屋に戻ると、書記の若者が調書を仕上げた所だった。

 彼を帰してその日の業務を済ませても、シカルは机で、姪が調べて来た北方部族の資料を、何とはなしに眺めていた。
 そうして、彼女が学生時代にまとめたであろう、古い遊牧民の伝承の中に、数行の記載を見付ける。


イグネー:風の精霊。流れる水も司る。/ 馬を駆って空を走る者。馬の守り神。/ 守護の森の別称。



     ~ イグネー・了 ~




 お読み頂きありがとうございます。

 *イグネーは造語です。リヤ族は架空の部族です。すべてフィクションです。



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