第23話 時系列をさかのぼる前奏曲⁉

文字数 2,370文字

よし。まずは前奏曲だな?

『椿姫』の前奏曲も、有名な曲なんだってな

サバ君はDVDをセットし、再生ボタンを押そうとします。

サバ君、ちょっと待った!

この曲については、先にコメントしておきたいことがあって……

何か押さえておくべきポイントがあるの?
うん、この曲には、後に続く物語のエッセンスが全部詰まってるの。

だから出てくるメロディーを注意して聞いてみてね。


そして重要なのは、そのメロディーの出てくる順番!

ヴェルディは物語の時系列をさかのぼるように作っているんだ

最初は、涙の滲むような悲しい音楽が静かに始まります。

これと同じ旋律が、第三幕の死の床にいるヴィオレッタのシーンで繰り返されます。


徐々に明るくなって情熱的な雰囲気になりますが、それは二人の愛が燃え盛っていた第二幕

そしてさらに楽し気で華やかになっていくのは、ヴィオレッタが派手な生活をしている第一幕

つまり、導入部で聴かせたメロディーを、本編で繰り返すわけです。

映画などではおなじみの、フラッシュバックの手法。

ヴェルディの時代には斬新だったんじゃないかな?

演出によっては、この前奏曲の中でヴィオレッタの死の場面を描き、そこから過去を回想する(ヴィオレッタ、あるいはアルフレードの視点で)という形で物語が進められるものもあります。
ではでは、「前奏曲」を聴いてみましょう!

悲しいメロディーで始まりますが、それはヴェルディが苦しい境遇の女性に対し、深い共感を抱いていたことの表れだと言われています

そのまま、オーケストラの音は大音量となり、

豪華な夜会を開催しているヴィオレッタの屋敷の広間が浮かび上がります。

※今回も、作中のセリフはここの作者がアレンジしたものです。台本に忠実ではありません。

また台本の版や演出によって、細部が異なることをご了承下さい。

第一幕
時は1840年代。

ヴィオレッタは有名な高級娼婦です。


そのヴィオレッタの屋敷に、華麗に着飾った紳士淑女が到着します。

先に来ていた人々は、遅刻組に対して大ブーイング!

お招きの時間は過ぎたのに

ずいぶん遅い到着ですね

フローラの所で、賭け事に興じておりましたのでな
ここは裏社交界(ドゥミモンド=「半分の世界」)。

身分の高い男性が、愛人を連れて遊びに来る所です。

本物の社交界は夫婦そろって出席するものですが、ここは男性のみなので「半分」と呼ばれます。

ようこそ、フローラも皆さんも。

今日は楽しんで行って下さいね!

(目配せをし、ニッコリ会釈をするフローラ。ヴィオレッタと同じ高級娼婦です)
ここにいる男性客の機嫌を取ることが、いかに大切なことか。

娼婦たちにはその点がよくわかっているので、ここは共同作業です。

楽しい雰囲気を損ねないよう、隅々にまで気を配ります。

残る今宵を、別の歓びで満たしましょう。

杯がめぐる間に、楽しみは増しましてよ

せっせとお酌をして回るヴィオレッタですが、

客たちは彼女の体調がすぐれないことを知っています。

(医師のグランヴィルです。ヴィオレッタとは友達)

楽しむ余裕がおありなのですか?

快楽に身を置くことこそ、何よりのお薬よ
その通り。快楽こそが命永らえる秘薬!
(遊び人のガストーネ。レトリエール子爵の御曹司です)


ヴィオレッタさん。あなたにご紹介したい人がいるんです。

アルフレード・ジェルモン。あなたの崇拝者ですよ。

彼ほど真面目な人間も珍しい

ガストーネが引っ張ってきたのは、ガチガチに緊張したアルフレード。

憧れのヴィオレッタを前にしているのに、気の利いた挨拶もできません。

……

(何とかひざまずき、ヴィオレッタの手にキス)

……あ、そ。

子爵様、ご紹介ありがとう

ヴィオレッタはさっさとアルフレードの前を去り、他の客に愛想を振りまきます。

場慣れしていないアルフレードに、ガストーネがささやきます。

言ったろ? ここは楽しい所だって。

お前もリラックスして楽しめばいいさ

……

(ついて行けないよ。こんなパーティー)

(使用人に)用意はできて?
皆さん、お席にどうぞ。

お酒で心を開きましょう

豪華なシャンパンが運ばれてきて、客たちは大興奮!

使用人たちが酒を注いで回り、人々は席につきます。

アルフレードが頼りないので、ガストーネがまたお節介をします。

ヴィオレッタさん。アルフレードはいつもあなたのことを想っているんですよ
まあ、ご冗談を
本当です。ご病気と知ってからは、いつも様子を聞いてくるんです
なぜかしら。私、この方とは何も
……(恥ずかしくて顔を上げられない)
傍らでは、ヴィオレッタのパトロン、ドゥフォール男爵が不機嫌そうにしています。

すかさずフォローに回るヴィオレッタ。

男爵様はそこまでして下さらないわね? フフっ
君とはまだ出会って一年だからな
あちらは数分ですのよ
みんながどっと笑い、ますます不機嫌になる男爵。

テーブル越しにアルフレードを睨みつけます。

虫の好かん若造だ!
(すかさずフォロー)あら、そうですか。私は好感が持てましてよ?
(僕もフォローに回りますよ)

それでは男爵様。乾杯の音頭をお願いします!

ところが男爵は、むすっとしたまま、アルフレードを指さすのです。
(う……怖い人だ……

しょうがねえな、もう)

ではアルフレード、本日のパーティーを祝して歌え!
……こ、困るよ。ガストーネ。

そんないきなり言われても……

君は詩人だろうが

そりゃあ、いい。ぜひやってくれたまえ!

みんな、拝聴だ!

人々の注目を浴びてしまったアルフレード。

恐る恐る、ヴィオレッタに向き合います。

……あなたも、それをお望みですか?
ええ、ぜひ!
じゃあ……即興ですけど、頑張ります!
導入部「お招きの時間は過ぎたのに」の動画はこちら!

主人公ヴィオレッタを演じているのは、ルーマニアのソプラノ歌手アンジェラ・ゲオルギューさん。歌唱力が絶大であるばかりでなく、黒髪の美しい容姿がヴィオレッタのイメージそのままです。

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