第15話 オレはエスカミーリョ!

文字数 1,572文字

銃口からはまだ煙が。

ホセはゆっくりとその銃を肩から下ろし、両手を上げて近づいてくる人影に目を凝らします。

……誰だ、返事をしろ!
オレはエスカミーリョ。グラナダの闘牛士だ!
おお~、この二人がついにご対面。

近づいてきたのは闘牛士さんだったのか

エスカミーリョ。名前は知っている!
しかし、ここへは来ない方が良かったぜ。

もう少し弾が下だったら、当たっていたところだ

分かっている。危険は承知でやってきた。

ここには、オレの惚れた女がいるんだ。

彼女に会うためなら、どんな危険も厭わないさ

……そうなのか。

その女の名は?

カルメン。それが彼女の名だ
カ、カルメン……
かつて彼女には恋人がいた。脱走兵だ。

二人は狂ったように激しい恋に落ちたそうだが、もう別れた頃だろう。

彼女の恋は半年ともたない

……

それでも、愛しているのか?

ああ。ぞっこんだね
絶句するホセ。

とんだ強敵が現れたものです。

しかしここは譲るわけにはいきません。

ジプシー娘を連れ出したけりゃ、それなりの対価を払うんだな
対価? 金か。

よろしい。払おうじゃないか

対価は剣で払うんだ!
短剣を取り出し、決闘の意志を見せるホセ。

エスカミーリョもようやく事態を理解します。

これはこれは。

美男の脱走兵とは、君のことだったのか。

会えてうれしいよ

うわ~!

イケメン同士の、勇ましい二重唱。

どっちもかっこいい~!

エスカミーリョも短剣を取り出し、決闘に応じます。

すばやく身を守れるよう、気を付けるがいい。

さあ覚悟しろ!

かかって来い!
がむしゃらに攻撃を仕掛けるホセ。

血みどろの戦いに慣れたエスカミーリョは、ひらりと身をかわします。

おいおい、腰が入ってないぜ? 脱走兵君よ
エスカミーリョはホセを馬鹿にして、最初は軽くいなします。

しかしホセの方も、軍隊で鍛えられた身です。戦いは互角に持ち込まれ、激しい剣戟が繰り広げられます。


ホセは一瞬の隙を突き、エスカミーリョの喉元に短剣を突きつけましたが……

こちらは香港での公演より。

オペラはヨーロッパで発展した文化なので、非ヨーロッパ圏の舞台は低く見られがち。しかし高い歌唱力を誇る歌手は各国にいて、この動画もかなりのレベルです。

ホセ役の莫華倫さんは、中国三大テノールの一人だそう。

剣を交える前に、テノールとバリトンが声をぶつけ合っています。オペラならではの決闘の表現です。

やめて! ホセ!
カルメンに引き続き、ダンカイロたちが駆け寄ってきて、ホセとエスカミーリョを引き離します。

エスカミーリョはすんでのところで命を拾いました。

ホセも肩で息をしています。

ハア……ハア……
何と、うれしいね。

オレの命の恩人が、愛しのカルメンだとは

おいおい、喧嘩は御免だぜ。

おれたちは仕事の真っ最中なんだ

ダンカイロはエスカミーリョに帰るよう勧め、エスカミーリョの方もそれを了承します。
仕方がない。脱走兵君よ、この戦いは引き分けだ。

しかし美女を賭けての決闘は、またいつでも受けて立つ。

その覚悟でいたまえ

旦那。早く帰ってくれ
わかった。しかしここを去る前に、もう一言だけ。


皆さんを、今度のセビリアの闘牛にご招待しよう。

最高のものを見せるから

すっとカルメンに近づくエスカミーリョ。
愛する人は、来てくれるだろうね?
……
カルメンもまんざらではない様子で微笑みを返します。

それを見て再びかっとなり、エスカミーリョに飛び掛かろうとするホセ。

人々はホセを取り押さえます。

心配ない。

オレはもう立ち去る。

あとはお別れを言うだけだ……

去って行く姿までが華麗なエスカミーリョ。人々とカルメンはうっとりと見送りますが、ホセだけは苦々しい表情をしています。


とはいえ今は、危険な密輸の真っ最中。

ダンカイロはパンパンと手を叩き、人々を仕事に引き戻します。

さあ仕事だ、みんな!
出発、出発だ!
人々は動き出しますが、そこでレメンダードが大声を発します。
待て!

誰か隠れてる

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