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>読者層を意識されていらっしゃるのでしょうか。


ぼくのケースは参考にならないと感じていますが、一応。

ぼくの場合は読者さんのことは意識していないですね。編集さんとのやり取りが、ぼくの作家業のすべてです。ぼくから外に出た原稿については気にしないし、外の意見や感想なども目に触れることはないし、どんなイラストを付けて頂いても、どんな扱いになっていても、とくに気にしません。

これは作家業における信念などという高尚なものではなくて、単に他の仕事が多忙だし充実しているという事情によるのかなと思います。


ぼくはたぶん売れない小説家の範疇だと自認しています。資本や経営や政治などリアル方面を書くので、小説に癒しや現実逃避を求められる読者が大半を占めるようになってきた昨今においては、最も嫌われるタイプの作家であろうことも自認しています。

ただ、このような姿勢であっても不思議と編集さんからの執筆依頼が途切れたことはないし、ちょくちょく色々な声がかかります。これから出版業がどう変転したとしても、自分がその気になれば小説(ビジネス書や実用書も)を商業で発表できる場所はどこかあるんだろうなという根拠なき実感はあります。

今は他が多忙のため原稿に向かう時間がまったく取れていませんが、意識としては書こうと思えばその日から書けるし、案件の一つとして引き続き請け負っていけるだろうとも感じています。


恥ずかしいことだと思いつつもどうでもいいぼくの例を出したのは、作家には3つの系統があると考えていまして、ぼくはそのうちの1つの極端な事例かなと考えるからです。



(1)過去のメジャー作家の系統

これは言うまでもなく、出版華やかなりし頃にブランドを確立し、作家として高い地位を確保できているメジャー作家さんの系統です。もちろん新しい人も出ていますけれども、過去に比べたら明らかに(1)の系統として台頭するのは難しくなっているでしょうね。



(2)なろう書籍化の系統

いま最も主流の系統は、先にも共有した通り、なろう投稿(+ネット投稿全般)からデビューに繋がる書籍化作家さんですね。なろう読者は作家など誰も見ていないので、その場その場でなろう読者を満足させていく大量執筆能力が問われます。作家買いなどは今後も期待できないので、立ち止まったときが試合終了です。

これも先に共有した通り、なろう座談会においてトップ作家陣に登場してもらったのですが、明快にご自身らの状況を把握しておられました。いま苦難の現実の前にいる読者の方々に対して、少しでも辛い現実から目をそらせるための方法を提供するために、なろう読者が望むままの精神的ポルノを提供してあげるのです。これはぼくの言葉ではなく、優秀なその書き手の方々の生のお話です。プロ作家さんにとっても編集者さんにとっても必ず参考になるので、ぜひ以下を手に取ってみてください。出版社から出すのは難しい内容でもありますから電子化してすぐ出しました。

『WEB作家でプロになる!: ①書籍化の方程式』

『WEB作家でプロになる!: ②パッケで9割の法則』

最近は編集さんですらなろうの現実を知らずになろうの話を語る方がとても多くなってきました。編集不要論はそうした敵情分析をまったくしない編集さんが現実に多々いるからこそ根強く出てくる話だと思われます。



(3)作家性の系統

この系統の極端な一つがぼくのケースだと思っています。(※最近は読解力のない方が多いので念のため書いておきますが、1ミクロンすら誇っているわけではないです)

大して売れていないのになぜか生き残っていたり、なぜか本がちょくちょく出ている人は、大なり小なりこのケースに当てはまるのだろうと思います。何か別の方面での知名度があったり、人間全体が面白かったり奇妙だったり、玄人に超うけるタイプの原稿を書いたり、ひとくくりにできませんが「作家性」という言葉に集約してしまっていいのかなと思います。

作家性というものを否定したがる方もいらっしゃいますが、実のところ作家性などという言葉には明確に定義できるものなどないので(定義できた瞬間にその作家性は作家性でなくなっている可能性があります)、そんなに躍起になって否定せず、作家性という不可思議な存在を笑って受け流す大らかさがあっていいのかなと思います。



上記3つの系統があって、この他は(直截的な表現で申し訳ないのですがどうか誤解のないように)あらゆる意味で売れない作家さんなのかなと思います。

ただし、プロになるハードルは低くなっているといえどもやはり全体としては少数ですし、プロの実績もあるわけですから、疑いようもなく文筆の実力はあるはずです。ここからステップアップできるとしたらいきなり(1)は難しいので、やはり現時点では(2)か(3)の方面に進行するしかないのではないかと考えるところです。


ただし、新人賞・小説賞の受賞は、(1)に行ける可能性がある切符が手に入るということでもあります。色々な新人賞も、リデビュー新人賞も、(1)への切符です。

そして手前味噌に聞こえるかもしれませんが、今回のリデビュー新人賞は(1)の切符は比較的大きめのものになるのではないかと感じます。その理由は、リデビュー新人賞は広告予算などゼロだったにもかかわらず一定程度バズったということは、それだけ賞自体の注目度が高いということの裏返しでもあるからです。また同時に、比較的数字だけを追求しない講談社編集者との強いつながりも手に入りますので(3)も確保できる可能性があるということでありましょう。


また、作家として長生きするということではなく、とにかく書籍化を達成していきたいという方は(2)がよろしいのかなと思います。その際は、ぜひ上述2冊に目を通してもらえさえすれば、基本的な敵情視察ができ、戦う準備も完了します。

どこまでも原稿を書き続けなくてはならない大変さはありますが、手っ取り早い手段かもしれません。

とはいえネット事情というのは、風向きが変わったときはすでに決着がついています。小説家になろうへの風向きも突然変わることは予想されますし、ちょっと前までがバブルだっただけであり、人間世界のあらゆる相場と一緒のことで、明日の事情はわかりませんね。


ここで詰まらない結論になってしまいますけれども、いずれのプロの方も、やはり他に手に職を付けておくということが良いのかなと考えます。そして出来うれば、そちらの職種があなた様の(3)を確立する手段とリンクしてくれれば、尚のこと結構なのではないかと思うところです。

作品タイトル:NOVEL DAYS リデビュー小説賞 座談会(第二部閉幕!)

エピソード名:リデビュー小説賞 座談会 #4

作者名:講談社タイガ公式  kodansha_taiga

228|創作論・評論|完結|9話|126,227文字

【リデビュー小説賞】, 講談社タイガ, 講談社ラノベ文庫, 講談社ノベルス

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「NOVEL DAYSリデビュー小説賞 座談会」

現在第二部も終了いたしました。

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■参加者
司会:作家 至道流星

講談社ラノベ文庫 編集長
講談社タイガ 編集長

リデビュー賞応募者のプロ作家の皆様

■開催概要
講談社が主催する「NOVEL DAYS リデビュー小説賞」についての座談会を開催いたします!
この賞を開催するにいたったの経緯や、現在の出版市況、小説に対する思いなどを、縦横無尽に熱く語っていただきます。

「リデビュー小説賞」の応募資格をお持ちのプロ作家の方々からのコメント、ご意見、ご質問なども大歓迎です。

*応募者や応募検討中の方へのご質問などにもお答えいたしますので、今回の座談会への参加者(書き込める方)は「リデビュー小説賞」への応募資格のあるプロ作家の方に限らせていただく形にて開催してみます。

座談会は、2018年10月18日(木)の16時頃~1週間後の25日16時頃までを予定しております。

リデビュー小説の開催概要はこちらをご覧ください。
https://novel.daysneo.com/award/kodansha001.html

*こちらの座談会は開催当時の紹介です