第2話

文字数 762文字

15年の間に変わったものは、自分だけではなかった。社会もまた同様に変化していた。
1つ1つの変化はさざ波のようでも、その変化の波は互いに打ち消し合ったり、合流して大きくなったりしている内に、全く別物にすり替わってしまっていた。
多様性、パワハラ、選択的夫婦別姓、桁が多い時価総額、SNS、ベーシックインカム、世界の色々な物事がごちゃまぜになって、情報も感度も、ゆとりも焦りも、自分の立ち位置さえも最早よく分からない。
結局得たものはまだまだ払い始めのローンが残る物件と、年の数と、自分をプロテクトする言い訳達だった。これらが自分をどんどん不自由にしていることはわかっていた。わかっているのに踏み出せない自分がもどかしく、その自分に苛立ち、呆れ、絶望していた。
自分は、頑張っていると言い聞かせているが、その代わりに手放したものは何だったのか。
ストラップがボロボロでガムテープの跡が残るリッケンバッカーのベースが、部屋の隅で寂しそうにこっちを見ている気がした。お前はもう終わっちまったのか?と。

現実の残酷さと、人の心の奥底は計り知れない。と今は思う。
そしてそれは、自分が捨てたものとトレードオフで手に入れてしまった感情なのだろうと。

いかに渋谷のど真ん中のビルで働こうが、フレックスで勤務しようが、本当に自分自身の欲を見つめ、それに呼応する生き方をする人には、まったく敵わない。そう思ってしまう。
そしてそれは世間も、世論も、すべて無視して、これが自分の人生だと胸を張って堂々と突き進み、あらゆる良しとされている数字の羅列や、肩書や、名誉から積極的に逸脱していくことができる人が実現している人生であるとも感じる。
同時に、その人の心の奥底は見えない。自分は他人にはなれないのだから。結局のところ全て妄想で、空想の産物でしかないというわけだ。
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