第一話 旅立ち

文字数 1,493文字

 圧政の時代が終わり、新しい世界が始まろうとしていた。
 周辺国を武力により併合していたライヒェンゲル帝国は、皇帝ルードバッハ三世の病死により解体の道を進んでいた。新皇帝アマベルトが各自治領の独立を認めたのである。
 ライヒェンゲル帝国に滅ぼされたミッテルラント王国のあった場所。その片田舎にシュピーゲル兄弟は住んでいた。
「兄さん、聞いた? また独立国が生まれたって。今度はシャフトラント公国だって」
「ライヒェンゲル帝国もライヒェンゲル連邦に変っちまったしな。僕たちの旧ミッテルラント王国はどうなるんだろうな」
「王族は皆殺しにあっちゃたしね。あ、でも、王女様は生きてるんだっけ?」
「まだ見つかってないらしいね」
「王女様かぁ。いいなぁ。俺も王女様と結婚したいなぁ」
「ははは、王女様が田舎の木こりの息子なんて相手にするもんか」
 シュピーゲル兄弟は、兄の名をゲオルグ、弟の名をフランクという。
 木こりの父親と三人で暮らしている。
「ゲオルグ。ゲオルグは居るか?」
 父親のジークフリートが帰ってきた。
「はい、お父さん」
「お前に一つお使いを頼みたい」
「なんでしょうか?」
「シャフトラント公国へ行ってもらいたい。そこで古い友人に会ってきて欲しい。ウンテル・リンデンという老人だ。この剣をお前に譲る」
「これはお父さんの剣……」
「これを見せれば話が通るはずだ」
 シュピーゲル兄弟は父親から剣の修行を受けていた。物心つく頃には既に習い始めていたため、どこの家庭でもそのようなものであると思っていた。が、実はシュピーゲル家だけがそうだということは大きくなってから気がついたのである。
「地図とお金だ。よろしく頼むぞ」
「わー、面白そう。俺も行っていい?」
「フランクはダメだ。家にいろ」
「ちぇっ」

 出発の朝、ゲオルグが村外れまで行くとフランクが待っていた。
「へへっ、やっぱり俺も連れてって」
「困った奴だな。父さんには言ってあるのか?」
「書き置きしといたから大丈夫だよ」
「ダメと言っても付いてくるんだろ。好きにしろ」
「やったー!」
「まったく、昔っからお前のわがままに振り回されて……。いつも叱られるのは僕なんだぞ」
 こうしてシュピーゲル兄弟は旅に出た。
 村を外れ、しばらく進むと人の気配がする。
 五、六人というところだろうか。
「ここを通りたけりゃ、有り金全部置いていきな」
 山賊である。
「まいったな。おい、フランク逃げるぞ」
「戦おうぜ、兄さん」
「おい! フランク!」
 ゲオルグが制止するのも聞かずにフランクは山賊の一人目がけて走り出してしまった。
 剣を交えるフランク。しかし、すぐに山賊三人に囲まれてしまった。
「ちっ、仕方ないな」
 ゲオルグは剣を抜き、フランクの後ろの一人を切り倒した。
 離れていた残り三人の山賊も集まってきて、二対五の状況。
「えいっ! やっ!」
 ゲオルグが剣を振り一人を倒すと、返す刀で流れるようにもう一人を倒した。
「とう!」
 突きで山賊の腹を刺し、振り返るゲオルグ。
「大丈夫か! フランク」
 フランクの前には倒れた二人の山賊。
「大丈夫だよ。兄さん」
「ふぅ、全くお前は無鉄砲なんだから」
「でも、まぁ勝てたんだし、いいじゃないか。しかし兄さんさすがだね。一気に四人も倒すなんて」
「父さんの訓練の賜物だな」
「俺が二人で、兄さんが四人か……。くそう、兄さんの方が2倍強いってことか」
「僕の方が修行が長いからね。なあにフランクもすぐ追いつくさ」
 放り投げていた荷物を拾い上げ、二人は旅に戻った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み