文字数 671文字

 予報はずれの大雨が降り注ぐ。
 男は突然の雨に気落ちする。当然、男は傘を持ってきてはいない。
会社玄関に残っているビニール傘を一本拝借しようと考えるが、それはあきらめる。

 自動ドアを出ると案の定、外は大雨。止む気配はない。
男は会社の女性社員が話していた噂話を思い出した。

 それは今日の昼の事。


「小宮さんお疲れ様です。彼女さんいるらしいじゃないですか。もうすぐ記念日とかなんですか?」
 男に向かってそう言うのは最近経理部に派遣されてきた松永美希。

「美希……小宮さん困ってるじゃん……。小宮さん気にしないでお昼ゆっくりしてくださいね」
 彼女の名前は山本明美。

 男は給湯器でコーヒーを作ると自分のデスクへ。今日のお弁当は朝買ってきたコンビニ弁当。

「そうだ明美、あの噂知ってる?」
 男のすぐ前の給湯器からお湯をカップ麺に注ぎながら松永が言う。

「え!! なになに?」
 この手の噂話に興味のある山本明美は案の定話に食いつく。

「深夜十二時に出てくる奴のアレの噂よ」

「アレってなに?」

「深夜十二時。雨の降る日に」

「おい。松永!! 帳簿出しっぱにするなって何度言ったらわかるんだ」
 経理部部長の佐藤拓也の声だ。

 松永は小さな舌打ちをするとすぐに給湯器から手を離し、カップ麺の蓋の上に液体スープの素を置く。

「おい!! 松永聞こえてるのか!?」

「はいーはーい今行きまーす」
 気だるそうな返事をし、松永は佐藤部長の元へ。これはいつもの光景。松永が派遣してから毎日のように行われている。

 
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