6-16 鵺が啼く空は虚ろ

文字数 1,435文字

 こ、うや?
 リンに使ったのは、父が密かに研究していた反魂の術です
 な、んだと?
 その術は元々お祖父様が亡くなられた時、父の身体を使ってお祖父様が黄泉返る為に開発されました
 な──
 父は、お祖父様こそ銀騎(しらき)になくてはならない方だと思っていたんです


 だから自らの全てをお祖父様に差し出すつもりだった

 何故、そんなことを……
 わかりませんか?家族だからです、親だからです!


 父はただ貴方の役に立ちたかっただけなんです


 ──そう、僕にだけ残してくれた日記に(したた)めてありました

 紘太郎(ひろたろう)が──まさか、そんな……
 だからお祖父様、事の是非はともかく、父の真心だけは疑わないでください!
 孫を通して語られた息子の心。


 亡き息子の姿を探すように詮充郎(せんじゅうろう)は宙を虚ろな目で見つめる。

 紘太郎(ひろたろう)……、紘太郎(ひろたろう)……ひろ──たろおォォォ

 乾いた瞳から、とうに枯れたはずの涙が滴る。

 皺だらけの掌にはたはたと落ちる雫。

 詮充郎(せんじゅうろう)は息子を悼んで泣いた。

 

 慟哭だった。

 愛しい者はもういない。

 ()いても()いても目の前にあるのは虚ろな空ばかり。

 

 何が欲しかったのだろう。

 ()くほどに何が欲しかったのだろう。

 それを示してくれる者はもう、いない。

 




 広い部屋に愛を泣き叫ぶ声だけが響いて、あまりの凄まじさに誰も動けなかった。はずだった。

 ──もういらないわ、あなた

 突然その場の誰でもない声が響いた。


 それが誰かを認識できぬまま、

詮充郎(せんじゅうろう)の体を細く長い針が貫いた。

 うっ──
 お祖父様!?
 星弥(せいや)詮充郎(せんじゅうろう)に駆け寄ると同時に、皓矢(こうや)がいち早く青い鳥をその声の主へと飛ばす。
 佐藤!!
 それをひらりと交わした後、佐藤は白衣を翻して眼鏡を外した。
 残念、仕留めそこねたかしら


 老人の泣く姿なんて見ていられないわよ。もう結構

 貴様──ッ!
 怒りのままに佐藤に攻撃しようとした皓矢(こうや)だったが、泣き叫ぶ星弥(せいや)の声で意識を改め、詮充郎(せんじゅうろう)に刺さったままの針を先に破壊する。
 お祖父様!

 お祖父様!

 星弥(せいや)、机の電話で本家から救護を呼びなさい!
 う、うん!
 金色の(ぬえ)、思った以上の収穫よ。これは楽しみになったわね
 貴様、何者だ!
 さあ、どうかしら?まだ知らない方がいいんじゃない?
 ふざけるな!
 皓矢(こうや)は凄まじいエネルギーを佐藤に飛ばした。電撃だと見てわかるような攻撃だったが、軽々と片手で弾かれた。
 副所長、わたくし佐藤(さとう)斗羽理(とばり)は一身上の都合により本日を持って退職いたしますわ。つきましては──
 言いながら佐藤はおもむろに白衣のポケットから、詮充郎(せんじゅうろう)が持っていた幽爪珠(ゆうそうじゅ)を取り出して見せた。
 それは──
 退職金代わりに頂戴いたしますわね、ウフフ!
 高らかな笑いを残して、佐藤はその場から陽炎のように消えた。
 待て──、くそっ!

 皓矢(こうや)は悔しがって床を拳で叩いた後、詮充郎(せんじゅうろう)の手当のために体を翻す。

 

 その場で皓矢(こうや)による延命治療が始められた。

 数分の後、禰宜のような和服を着た集団が忽然と現れて詮充郎(せんじゅうろう)を取り囲んだ。

 

 その様子を(はるか)蕾生(らいお)鈴心(すずね)も呆然と見ていることしかできなかった。

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登場人物紹介

唯 蕾生(ただ らいお)


15歳。男子高校生

怪力なのが悩みの種

九百年前の武将、英治親の郎党・雷郷の転生した姿


周防 永(すおう はるか)


15歳。男子高校生

蕾生の幼馴染

九百年前の武将・英治親の転生した姿


御堂 鈴心(みどう すずね)


13歳。銀騎家に居候している少女

英治親の郎党・リンの転生した姿

永と蕾生には非協力

銀騎 星弥(しらき せいや)


16歳。高校一年生

銀騎詮充郎の孫で、銀騎皓矢の妹

鈴心を実の妹のように可愛がっている

永と蕾生に協力して鈴心を仲間に入れようとする


銀騎 皓矢(しらき こうや)


28歳。銀騎研究所副所長

詮充郎の孫

銀騎 詮充郎(しらき せんじゅうろう)


74歳。銀騎研究所所長

およそ30年前、長らく未確認生物と思われていたツチノコを発見、その生態を研究し、新種生物として登録することに成功した


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