第十一話 剣聖結界 ―エーテルと法術― Ⅰ

文字数 3,808文字

 レイ・フォワード率いるFOS軍が向かった先は、剣の師である剣聖:カルナック・コンチェルトの所だった。最後だけぽっかりと空いてしまっている秘術を教わるために彼等は今、最後の宴をしていた。
 その中一人、いや二人だけ重苦しい空気の中で向き合っていた。片手には既に燃え尽きている煙草を指に挟んで。
 外では楽しくバーベキューを楽しんでいるレイ達の姿があった、アデルはカルナックと同様に酒を浴び、どろどろにまで酔っぱらっていた。酔った勢いで何やら手品を見せると言いだし立ち上がった。勿論そのネタは誰でも知ってるネタであり、かつ誰にでも出来るような事なのでここに書く事はしない。

「ねぇ、ちょっと風当たりに行かない?」

 レイの隣で少しほろ酔い気味のメルがそう言った。少しだけ頬を赤らめているのは酒の性だろう。

「うん、そうしようか」

 レイとメルはそっと立ち上がるとその場の人間に少しだけ席を外すと言って森の中へと姿を消していった。

「ふーん」

 プリムラが片手にワイングラスを持って二人が消えていった森の方へと目をやる、その顔には誰が見ても下心見え見えの妄想を抱いている。

「プリムラちゃん、若い子達の詮索は止めた方が良いよ」

 シトラだ、同じく片手にビールジョッキを持つ姿はとってもよく似合う。現実世界にもこんな年増の女性も多くいるだろう。シトラはグイッとビールを一気飲みした。

「ぷはー、それにしても先生! 相変わらず年取った感じには見えませんね? あれから十五年も経つんですよ?」
「はっはっは、そんな事を言ったらシトラ君だって昔と変わらず美人じゃないですか。まぁ、昔の頃はまだ可愛いの分類でしたがね。良い感じに綺麗になりましたよ。何でもあの後はケルヴィン君の城で働いていたとか、やはりというか何というか、あなたも付いて来てしまいましたか」

 昔の事を思い出しながら少し懐かしくなったカルナックはそのままシトラと絡み出した。二人とも酔っているせいか何とも滑舌が悪い。

「やはりって何ですか先生? フィリップ様はお変わりになりました。でも、剣の腕は相変わらずですよ。既に引退のみですけどね。先生は未だ現役でいらっしゃるのですか?」
「いえいえ、私も既に引退の身です。現にこうして私の剣術の後継者をとって居るぐらいですから。私もいい年になりましたからね」

 笑い声が聞こえる、その他の人間も二人の話に興味を持ちだして楽しく聞き入っていた。




「うーん、流石に少し冷えるね」
「そうだね、もう少し厚着をしてくれば良かったかな?」

 レイとメルは近くの泉に来ていた、この場所はレイのお気に入りの場所でもあり、魔物も寄り付かない場所としてゆっくりとのびが出来る場所の一つでもある。

「うん、少し寒いかな。っあ!」
「え?」
「えへへ、良い事思いついちゃった。それ!」
「え、何? うわぁ!」

 メルはレイに飛びついた、やっぱり酔っぱらっているせいか理性は少しとんでいるらしい。普段のメルならこんな事しないはずだ。そうレイは自分に言い聞かせた。

「えへへ、レイ君暖かい」
「ちょっとメル!?」
「何? 私じゃ駄目なの?」
「駄目とかそうじゃなて、誰かに見られたら」
「誰も来ないよ、そのためにこんな場所まで来たんだから」
「あれぇ? レイ君、何だかドキドキいってるよ?」
「ききき、気のせいじゃないかな? あはははは!」
「あはは、はははははは……はは………………うぅ、うあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 さっきまで笑っていたメルが突然泣き出した、レイは何故メルが泣いているのかを知っていた。それはメルの命が後どれくらい持つのかだった。
 そっとメルを抱きしめる、腕の中で自分の名前を呼んでくれる女の子を優しく。メルはレイのジャンパーを鷲掴みにして泣いていた。

「嫌だよ! やっと好きな人が出来たのに、やっと自分に素直になれると思ったのに!」
「……」

 とてもやるせない感情がレイの中に残った、とても痛々しくて、とても悲しくて、とても捨てきれないこの感情。何処にぶつけられるモノでもないのに。

「怖いよ! 私、自分が怖いんだ。こうしてレイ君と一緒にいる事が幸せに感じられて、なのにこんなの私じゃないのに……とても悲しくて……私……なんなんだよぉ」
「メル、大丈夫。お医者さんがくれた薬をちゃんと飲んでれば大丈夫だって言ってたじゃないか。きっと治る」

 メルはそっと顔を上げた、涙でグチャグチャの顔だったけどレイはその顔がとても可愛いと思った。そして二人は以前にもした時と同じように、お互いの唇を重ねた。




「なっ!」
「これが神苑の瑠璃の本当の正体、どう? 納得出来た?」
「それが本当の話なら、俺達がする事は……」
「そう、本当はやってはいけない事。でもレイ君に話してはいけない事の一つでもある。いい? 決してレイ君や他の人間には話してはいけないよ?」

 ギズーはその目を丸くして愕然としてた、神苑の瑠璃の本当の正体を知った驚きと、レイや今の自分たちに襲いかかる恐怖が。

「何でそんなモノがこの世の中に……ふざけろ!」

 ギズーはすぐそばの壁を思いっ切り叩いた。そして叩いた手から血がぽたぽたとしたたり落ちて床を鮮血に染める。

「いい? これが人間なの、そしてそれはおとぎ話でもある、"幻魔大戦"の真相。当時の帝国がやっとの思いで探し出したにもかかわらず最低の結果で終わったしまった」
「だからって、何万もの人間を犠牲にするまでの価値があったとも思えん。単純に考えればそんなモノ制御出来るはずがない、そんな事……許されるはずが」

 ギズーは怯えている、人間の欲望と願望のおぞましさと恐怖に。自分もその人間達の生き残りなのではないかと考えるとゾッとする。今まで自分がしてきた行為がとっさに脳裏によぎった。

「あなた達は、神苑の瑠璃を使ってはならない。だけど帝国も動き出している。だからこそあなた達は神苑の瑠璃を守らなくちゃいけない。今の帝国軍総帥の手から」
「人間は、何処まで汚いんだ」

 壁に押しつけていた手をゆっくりと下ろした、未だ滴り落ちてくる血液は止まることなく床を塗らした。一つため息をしてアリスはギズーの手を取る。

「まったく、どうしてカルナックの元に来る人間ってこんなに血の気が多いのかしら? 私の包帯がまた上手くなっちゃうじゃない」
「アリス姉」
「ふふ、でもこの事は本当に喋ってはいけないよ? この事を知ってるのは私と貴方とカルナック、そしてそれを体験したシトラさんだけ」
「シトラ? シトラってあの?」
「そう、シトラさんは実際にそれを体験している。だからこそ危険なのを承知で旅をしてるんだと思う。あなた達を守るために」

 なるほど、そんな感じの顔をしていた。確かに瑠璃の話を持ち出すと何故か暗い表情になったり途中止めようとしたりと色々な妨害をしてきたのも事実。それまでの行為が何故あったのかをアデルはようやく理解し解釈した。

「誰だ!」

 とっさにドアの方に包帯を巻かれた右手でシフトパーソルを握りしめ狙いを定める。アリスはとっさの事に何のことだか分からずにドアの方を見た。

「ごごご、御免なさい。話が聞こえたもんだからつい……」
「お前、ビュートとか言ったな? 出てこい」

 ゆっくりとドアが開けられた、そこにはギズーの背丈の肩ぐらいまでの少年が立っていた。そうビュートだ。

「盗み聞きとは良い度胸してるな?」
「ち、違います。ただ、アデルさんからギズーさんを呼んでくるように頼まれまして。それでこの部屋に来たんですけど、なかなか入るに入れなくて」
「でも盗み聞きはよくねぇよな? 場が悪かったら改めて出直してくるとか色々と有ったんじゃねぇの?」

 心身共に怯えきってるビュートにギズーは銃口を話さなかった、奥にいるアリスも何も言わずに只突っ立っているだけ。

「この事は誰にも内緒だ、誰かに喋ってみろ。その時はカルナックの人間でも、殺す」

 そう言うと引き金を引いた、顔の横を数センチずれただけの弾丸は消音サイレンサーから発射された。

「あ、あ、あ…………」

 ちょっと脅したつもりだった本人は少しやりすぎたと後悔している。ビュートはその場で硬直し持っていた荷物を全部床に落としてしまった。その中には割れ物なんかも含まれていた。

「ち、こりゃ片づけるの一苦労だな」
「そうね、でもそれは私の仕事だからギズ君は気にしなくて良いんじゃなくて?」
「それもそうなんだがな、引き金を引いたのは俺だし。一応罪悪感って奴さ」
「へぇ、ギズ君に未だそんなこころが残っていたなんてね。ちょっとお姉さん意外」
「……いつまでそうしてるつもりだ? ほら」

 ギズーは未だ硬直しているビュートの肩に手を乗せた、そして少し力を入れるとバネのように跳ね上がった。結構内心来ているモノがあるらしい。

「こ、殺さないで下さい!」
「おいおい、人聞きの悪い事言うな。誰も殺しやしねぇよ。でもな、誰かにこの事喋ってみろ……本気で殺すぞ!」
「ははは、はい!」

 肩がびくびくと震えている、相当怖かったのだろう。ギズーはそのことを察してか少し優しい口調で話しかけた。だが一度火がついてしまったモノはなかなか消えてはくれない。それはギズー自身がよく知っている事だ。

「ほらほら、お前の仕事は俺を呼んでくる事だろ? だったらアデル達の所に戻って酒でも飲もうや。勿論未成年だけどな?」
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