第34話 青年はドジっ子魔法使いがちょっとかわいいなと思ってしまった

文字数 2,508文字

「勝った……」

 自分たちの偉業だというのに信じられない面持ちのアシュレイが呟く。

「勝ったはいいが……どうするつもりでいるんだ? レイト」

 と、ソフィアが険しい表情でレイトを見る。
 彼女たちの目標はドラゴン退治じゃあない。
 あくまでも魔王に拐われた王女クリスティーンの奪還である。
 だというのにこんなところで手持ちの武器を失くしてしまうのだから深刻に捉えるのも無理はない。
 しかし、レイトはいたって楽天的だ。

「大丈夫だと思うよ」

「その自信はどこからくるのですか?」

「俺の足元」

 と、指差す先に四人の視線が集まる。
 そこにはドラゴンがため込んでいたお宝が文字通り山と積まれていた。

「お宝発掘といこうじゃないか!」

 レイトの音頭で冒険者たちはお宝の山をかき分け始める。
 すると出るわ出るわ、王国ではお目にかかることが不可能な武具防具がザックザックと掘り出される。
 あーだこーだと話し合って冒険者の装備はこうなった。

●レイト
 アダマントの剣+5フレイムオンコマンド
 アダマントの鎧+4
 アダマントの兜+4
 アダマントの盾+2レジストライトニング
 耐火マント
 魔法の背負いカバン
 力の宝石
 知恵の宝石
 守りの宝石
 加護の十字架
 HPポーション5
 MPポーション7
 解毒薬6
 金貨742,627,245GP
 宝石216
 アダマントの短剣+2

●ヴァネッサ
 アダマントの両手持ち大剣+5
 アダマントの胸当て+3
 耐火マント
 魔法のかつぎ袋
 力の石
 守りの宝石
 HPポーション9
 MPポーション2
 金貨932,111,497GP
 宝石435
 アマゾネスの大剣+2
 アマゾネスの胸当て+1

●ソフィア
 アダマントの剣+3
 アダマントの鎧+5
 オリハルコンの盾+3
 オリハルコンの兜+1
 耐火マント
 魔法の背負いカバン
 力の宝石
 知恵の石
 守りの宝石
 HPポーション9
 金貨376,614GP
 鋼の騎士の剣+1
 騎士の盾(クリスの形見)

●アシュレイ
 世界樹の枝でできた杖
 オリハルコンで編まれたローブ・レジストマジック
 身代わりの指輪
 魔神の指輪
 魔法のかつぎ袋
 魔法の書
 知恵の宝石
 守りの石
 HPポーション9
 MPポーション16
 金貨433,667,455GP
 宝石73

●ビルヒルティス
 オリハルコンで編まれたマント・レジストマジック
 (ホーリー)(シンボル)
 オリハルコンの護身用ナイフ+3
 身代わりの指輪
 魔法の背負いカバン
 知恵の宝石
 守りの宝石
 HPポーション8
 MPポーション11
 金貨453,365,665
 宝石85

 見た目の数倍の収納力を持った魔法のカバンがあったとはいえ、さすがにすべてのお宝を持ち出せるほどではなかったのが残念だったけれど、充分すぎるほどの戦利品で装備を数段レベルアップできた冒険者は、少し早いと思いつつ休息を取ることにした。
 案の定一瞬で睡眠を終えたレイトは三番目の見張りにつく。
 元々ドラゴンのねぐらだった場所だったことが幸いしてかこの夜も夜襲はなく、冒険者は洞窟の先へと進んでいく。
 ずっと下り坂だった道はドラゴンのねぐらが底だったらしく緩やかに上り坂に転じ、広かった道も狭くなってくる。

(あのドラゴンはどうやってあそこに入ったんだろう?)

 レイト、それ、考えちゃダメなやつ!

 その後も敵らしい敵に出会うことなく冒険者は洞窟の出口にたどり着いた。
 たどり着いた先は峻険な山と同化するようにそびえる禍々しい城を見上げる山の麓だった。

「なんだい、ありゃ?」

「あれが魔王の城なんだろう」

「あそこに乗り込まなきゃダメなの? やだなぁ」

「アシュレイさんはここまできて帰るつもりですか?」

「ビルヒーは肝が据わってるのね」

「私も帰りたいですけどね」

「帰るわけにはいかない。姫の奪回が我々の使命なのだから」

(家に戻るためにも他に選択肢ないだろうしな)

 レイト、それを言っちゃあおしめぇよ。
 ホント、身も蓋もないな。

「とにかく、先へ進もう」

「運よく魔王城にこれだけ近づいたんだ、できればできる限り見つからずに魔王城に辿り着きたいな」

「ならわたしが魔法をかけよう」

 と、いうが早いかプロテクションフロムエネミーをかける。

「これで大抵の敵には出会わなくなるはずよ。ついでにこっちもかけとこうか?」

 と言ってディサピアーという魔法を一人一人にかける。

「おいおい、みんな見えなくなっちまったぞ。これどうすんだ?」

「姿は見えなくなったが声は聞こえるな。しかし、声をかけながら進むなんて姿を消した意味がないぞ」

「あ、ごめん。考えてなかった」

 ダメだろ、それ。
 アシュレイは魔神の指輪をこする。
 するとアシュレイが姿を表すと同時にいかつい髭面のオヤジが現れた。

「お呼びでしょうか、ご主人様」

「敵に見つからないようにあの城まで行きたいから案内して」

「かしこまりました」

 ポカンとバカ面さげている三人に(と言っても見えないんだけど)再度姿を消しながらアシュレイが注意をする。

「こんな風に攻撃をしたり魔法使ったりしたら効力がなくなるから注意してね」

 いや、それどんな風にだよ。
 歩くだけならいいのか?
 効力がなくなる行動ってどの範囲なのかちゃんと教えてあげなきゃいけないじゃあないかね? アシュレイ。

 と、地の文でいくら言っても仕方ないわけだけど。

 指輪の魔神はランプの魔神ほどじゃあないけれどすごい魔神だったらしく、姿を消しているアシュレイがどこにいるのか判っているようだ。
 一人でずんずんと進んでいくようなことはなく、時折立ち止まって彼女たちを待ってもくれる。
 さらにこの先になんちゃらいうモンスターがいるだのここに罠があるだのとても詳細に説明しながら危機を回避してくれる。
 誠に優秀なナビゲーターだった。

 やがて冒険者たちはもう数時間も歩けば城にたどり着く、というところまで来て日が暮れた。
 隠密行動中ということで火も熾せずに温かくない保存食を食べて野営をすることになった。
 ただ一つよかったのは、指輪の魔神が不寝番をしてくれたことだ。
 おかげで彼女たちは久しぶりに十分な睡眠が取れた。

 もっともレイトの睡眠は例によって一瞬で朝を迎えたわけだけど。
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