第1話 ふぁんた爺のルーティン

文字数 1,332文字

○東京都台東区南千住 7:30am

中堅サラリーマンの家、夢殿家の朝は忙しい。

(お父さん)フォフォフォ、それじゃ行ってくるよ。今日は、部長級の会議でね。会社の人間と顔を合わせるのも久しぶりだよ。
(お母さん)まあ、在宅リモートで済ませないんですか。コロコロリンウィルスで大黒柱のお父さんがコロッと逝かれたんじゃ...

あっ、これお弁当。忘れないでくださいね。

お弁当を手渡すお母さん。
お弁当の御飯を白米から雑穀米にしてから、体調がいいよ。

フォフォフォ、それじゃあ行ってくるよ。

出勤するお父さん。
おーい、おーい。
(浪人中の息子一郎)あれっ、また二階からお爺ちゃんの声がするよ。
(お婆ちゃん)また、朝の儀式でしょ。一郎、例のやつ持っていって。
冷蔵庫から何やら取り出して、二階に持っていく一郎。
ガタガタ
おおっ、一郎!おはよう。
お爺ちゃん、朝の定番持ってきたよ。
ふぁんた(清涼飲料水)を差し出す一郎。
しゅわわわ
湯呑みに注がれたふぁんたを呑むお爺ちゃん。
うーむ、この朝の清涼感が堪らんのう。

それで、おまえは今何やっとるんじゃ。

大学浪人なんだよ。

W大の理工学部に入りたいんだけど、なかなか合格出来ないんだ。利口じゃないからなのかな。

(ボケたお爺ちゃんの前で、ボケる孫)

倦まず、弛まず前を向いて進む事じゃ。

そうすれば、いつか春が来て桜が咲く。

人生押さば引け、引かば押せじゃ。

一郎、おまえは今、人生に押し込まれとる。

そん時は引いとくんじゃよ。

そしたら、人生の方で引いてくる。そしたら、さっと押し込めばいい。

そして、人生に投げられたら、受身をとってまた歩き出せばいい。

要は、諦めないことじゃよ。

(ボケてるが、柔道五段のお爺ちゃん)

お爺ちゃんの朝のルーティンみたいだね。
こりゃ、わしの青春のファンタジーなんじゃよ。

ワシをふぁんた爺と呼んでくれ。

(リアルにボケを返すお爺ちゃん)

はははっ。

(何も泣かなくても)

...それから、30年後...
○ロボットベンチャー企業【夢殿】社長室
社長、社長!起きてください!3時ですよ。
(秘書)お茶の時間です。
(CEO一郎)うーむ。もう3時か。うっかり、居眠りしてしまった。
いつもは、暖かいお茶かコーヒーなのに、今日に限って何で清涼飲料水のふぁんたなんですか。
今日は、祖父の命日でね。ふぁんたを毎朝呑むのが柔道五段だった祖父の日課だったんだ。

ワシは、W大が第一志望だったんだが、なかなか受からなくてね。

祖父が亡くなったその歳にようやく合格したんだ。

その時の受験番号が214番、ふぁんた爺だったんだよ。

お爺様が、きっと天国から応援したんですね。
きっとそうなんだと思う。

おっと、今日は柔道のシニア国際大会が東京である日だったな。


ラジオをつけてみましょう。速報でやってるかもしれませんよ。
...bbb..3時のニュースです。

...東京で開かれた柔道のシニア国際大会ojimpicにおいて、日本の柔慎太郎五段が、無差別級の決勝でロシアのプッチンプリン選手を破り、見事金メダルに輝きました...


おーっ、やった。日本が金だ。ふぁんたで祝杯だ。
ふぁんたを天に捧げ、一気に飲み干す一郎。
しゅわわわ
うっ、冷たい。まだ、春の余寒がある。

明日から、また暖かいコーヒーに戻してくれ。

了解。
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