4.グラムの魔法使い

文字数 1,125文字

 世界にはママのほかに、ママとは似ても似つかない大きい人がいる。ぼくのことを「きいろ」と呼び、ぼくの大嫌いなあいつを「みどり」と呼ぶ人だ。そしてママを喜ばせ、ママが喜ばせる。この人は一体何者なのだろう?

 考えてみるけどぼくにはよくわからない。

 しかもこの人と、ママやぼくたちとの違いはとても大きい。そもそも大きさが全然違う。ぼくたちはこの大きい人の足元くらいの大きさしかない。ぼくたちは小さい。

 歩き方も違う。ママやぼくたちは四本の足で歩く。大きい人は二本の足で歩き、残りの足でいろんなことをする。

 ご飯についてはさらに謎だ。この大きい人は時々ママのご飯を持ってくる。ママが食べているものは気になるけれど、残念なことにぼくはまだそのご飯は食べられない。ぼくのご飯は今でもママがお腹から出してくれるんだ。その一方で、どうやら大きい人はご飯を食べないらしいんだ。お腹は空かないのかな?

 もちろん、不思議なことはこれだけじゃない。

 ママと大きい人との間には、ぼくやみどりにはない内緒の時間がある。たまに、二人でこっそり出かけちゃうんだ。一体どこに行っているんだろう。

 ぼくはママがいなくなるととても寂しい。けれども、ママはお出かけの時とても興奮して、嬉しそうにお尻を振る。この時ばかりはぼくたちのことをママはすっかり忘れている。

──お尻を振る。

 喜んだ時にぼくたちはお尻を振って気持ちを伝えればいいらしいんだ。だから、ママが帰ってくると、ぼくは一生懸命お尻を振るよ。ママ、お帰り! って頑張って振るんだ。そしたらみどりがいつもぼくの横で真似をする。あいつは本当に憎たらしいよ! 大嫌い!

 そうそう、大きい人の謎の行動はまだまだあるよ。

 たとえば、時々ぼくを持ち上げて別の場所に行く。そして、狭い箱のなかにぼくを置いて、こう言うんだ。

「……グラム! また大きくなったね!」って。

 グラムの前にはいつも違うことを言うんだけど、「グラム! また大きくなったね!」の部分はいつも同じだよ。

 でも、グラムって何だろうね?

 美味しいのかな?

 毎日毎日唱えて、楽しいのかな?

 でも、グラムと唱え終えた大きい人はいつも嬉しそうな顔をする。この大きい人は嬉しいを表現するために、目の端をすっと下げ、口の先をすすっと上げるんだ。それもぼくたちとはちょっと違う。

 一体どうしたらこんなことができるんだろう?

 ぼくの顔はこんな風に動かないよ?

 それとも、グラムと唱えると顔を動かす魔法が使えるのかな?

 ぼくは一度だけ、この大きい人をまねして呪文を唱えようと思ったことがある。でもね、どんなに口を動かしても「ウワワ」ってしか言えないんだよ。グラムの魔法、ぼくも使ってみたいのになぁ。
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登場人物紹介

花(はな)

 ウェルシュ・コーギー・ペンブロークの女の子。命名前は「きいろ」と呼ばれていた。

 生まれてすぐに皐月原家の仲間入りをする。


(登場作品)

わんでい

ママ

 ウェルシュ・コーギー・ペンブローク。花、「みどり」の母犬。


(登場作品)

わんでい

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