２０２１年９月
文字数 2,020文字
東日本大震災から十年以上が経過していた。レイコも夫も、四十代になり、立派な中年になっていた。
あれから夫は、精神科医に通い、律儀に毎日薬を飲んでいた。添加物とは比べ物にならないほど効果が出ていた。飲めば飲むほど体調は悪化していて、各種副作用に苦しまされていた。髪の毛もすっかり白く変化し、五十代半ばぐらいに見えていた。手の震えが止まらなかったり、気分の落ち込みも激しくなり、ついに仕事もできない状態になっていた。薬漬け廃人という言葉がピッタリな状況だった。
そんな中でも時間はたっぷりあるので、女との密会は相変わらずだった。ただ、去年から疫病騒ぎになってからは、ウィルスを怖がり、家にこもっていた。
それでも就労の意図はあるようで、NPO法人の就労移行に通っていた。毎日、低レベルなパソコンや簿記の授業などをやらされて、夫のプライドはズタズタになっているようだった。夫と同じような高学歴の利用者もいて、傷を舐め合っているようだが、特に改善はしていないようだった。確かにこう言った福祉は、「弱者」扱いされ、自立の機会も失っているようだった。一見、心地よいぬるま湯だが、自信も自己肯定感もつかないだろう。レイコは生活保護の自殺者も多い理由がよくわかる気がした。
最近、夫は「死にたい」と言い始めていた。副作用が「自殺」の薬の効果も、十年かけてじわじわとと効果を生んでいるようだった。それに加えて福祉での扱いも夫のメンタルを悪化させているようだった。
そんな中、注射の案内が家に届き、さっそく夫の元に持っていく。
「あなた、持病があるんだから、早く打たなきゃ。ウィルスで死んじゃうわ！」
最後の一押しだった。陰謀論界隈では、注射は危険で、死ぬ可能性があると言われていた。ただ、ロットによって効果が違うようで、死ぬようなソレに当たって欲しいと願うばかりだった。
抗うつ薬や精神科医療について、調べていたので、この注射も良くないものだと直感が訴えていた。レイコの中では、医者や医療への信仰はゼロに等しかった。テレビの医療ドラマと違い、これらも金儲けの手段とも思う。どんな病気も完治してしまったら、病院は潰れる。注射の中に病気の種になるものが仕込んであっても、不自然ではない。まあ、これは全く証拠も無い陰謀論なので、まともな人は信じないで欲しい。
「わかった、明日モールで接種してくるよ」
「ええ。一刻も早く打ってね！」
そう言うと、レイコと夫は抱きしめあった。こも時ばかりは、なぜか夫も疫病を怖がっていなかった。
結局、夫は帰ってこなかった。接種後、線路に飛び込んで死んだ。遺書はなかったが、一般的な自殺として処理された。ロットは当たりではなかったし、注射との因果関係は不明だった。
その後、レイコは健康関連のインフルエンサーとなり、陰謀論界隈で名が知れていった。
レイコは、夫の件は多くは語らない。だって因果関係不明だから。注射なのか、抗うつ薬なのか、添加物か何が引き金になったか、別に大きな証拠は無い。
たまに薬害が騒がれているが、抗うつ薬も合法だ。おそらく被害者も多くいるだろうが、訴える気力も失わせる薬なのだろう。副作用「自殺」だが、元々心が疲れている人が飲むものでもあり、卵が先か鶏が先か有耶無耶になる。
ちなみに夫の主治医は、抗うつ薬の副作用については1秒も説明しなかったらしい。主治医はレイコに協力してくれた共犯者かもしれない。診察も毎回1分程度だったようだが、何の罪に問えない。これも因果関係など不明だから。薬を飲んだのは、自分の責任だから。
レイコは夫が死んだからと言って別に幸せにはなれなかった。若い頃から二十年も無駄にしたと思うと虚しく、これから再婚も出産も難しい事は、罰を受けているのかもしれない。鏡の中には、疲れた顔の中年女性がいた。若い頃は浜崎あゆみに似てると言われたが、全く面影はなかった。
健康に気をつかい過ぎるのも、かえって老けさせる事もあるようだ。最近はビーガンをやっていた。肉や魚も食べていないせいか肌は常に乾燥していた。健康に気を使っている自然派も、意外と長生きしていない事例も多いらしいと聞く。
だからと言って私生活を切り売りしたようなインフルエンサーとして稼いでいるので、この界隈から離れられない。毎日、肉や魚を食べられないストレスが降り積っていく。正直、意識高い玄米菜食にもウンザリしていた。本音では袋に入った添加物まみれのパンが食べたい。先週から微熱も続き、何となく心身ともに調子も悪い。これはブーメランというものなのかもしれない。
蒔いたものは、必ず刈り取る時があるのだ。それは生きてる間だけでなく、死んだ後にもあるかもしれない。例えば地獄の様な場所もあるのかもしれない。精神科医の自殺率が高いのも、何か因果関係があるのだろうか。精神科医の自殺者は一般人の五倍と言われている。
夫を殺した完全犯罪・完。
あれから夫は、精神科医に通い、律儀に毎日薬を飲んでいた。添加物とは比べ物にならないほど効果が出ていた。飲めば飲むほど体調は悪化していて、各種副作用に苦しまされていた。髪の毛もすっかり白く変化し、五十代半ばぐらいに見えていた。手の震えが止まらなかったり、気分の落ち込みも激しくなり、ついに仕事もできない状態になっていた。薬漬け廃人という言葉がピッタリな状況だった。
そんな中でも時間はたっぷりあるので、女との密会は相変わらずだった。ただ、去年から疫病騒ぎになってからは、ウィルスを怖がり、家にこもっていた。
それでも就労の意図はあるようで、NPO法人の就労移行に通っていた。毎日、低レベルなパソコンや簿記の授業などをやらされて、夫のプライドはズタズタになっているようだった。夫と同じような高学歴の利用者もいて、傷を舐め合っているようだが、特に改善はしていないようだった。確かにこう言った福祉は、「弱者」扱いされ、自立の機会も失っているようだった。一見、心地よいぬるま湯だが、自信も自己肯定感もつかないだろう。レイコは生活保護の自殺者も多い理由がよくわかる気がした。
最近、夫は「死にたい」と言い始めていた。副作用が「自殺」の薬の効果も、十年かけてじわじわとと効果を生んでいるようだった。それに加えて福祉での扱いも夫のメンタルを悪化させているようだった。
そんな中、注射の案内が家に届き、さっそく夫の元に持っていく。
「あなた、持病があるんだから、早く打たなきゃ。ウィルスで死んじゃうわ！」
最後の一押しだった。陰謀論界隈では、注射は危険で、死ぬ可能性があると言われていた。ただ、ロットによって効果が違うようで、死ぬようなソレに当たって欲しいと願うばかりだった。
抗うつ薬や精神科医療について、調べていたので、この注射も良くないものだと直感が訴えていた。レイコの中では、医者や医療への信仰はゼロに等しかった。テレビの医療ドラマと違い、これらも金儲けの手段とも思う。どんな病気も完治してしまったら、病院は潰れる。注射の中に病気の種になるものが仕込んであっても、不自然ではない。まあ、これは全く証拠も無い陰謀論なので、まともな人は信じないで欲しい。
「わかった、明日モールで接種してくるよ」
「ええ。一刻も早く打ってね！」
そう言うと、レイコと夫は抱きしめあった。こも時ばかりは、なぜか夫も疫病を怖がっていなかった。
結局、夫は帰ってこなかった。接種後、線路に飛び込んで死んだ。遺書はなかったが、一般的な自殺として処理された。ロットは当たりではなかったし、注射との因果関係は不明だった。
その後、レイコは健康関連のインフルエンサーとなり、陰謀論界隈で名が知れていった。
レイコは、夫の件は多くは語らない。だって因果関係不明だから。注射なのか、抗うつ薬なのか、添加物か何が引き金になったか、別に大きな証拠は無い。
たまに薬害が騒がれているが、抗うつ薬も合法だ。おそらく被害者も多くいるだろうが、訴える気力も失わせる薬なのだろう。副作用「自殺」だが、元々心が疲れている人が飲むものでもあり、卵が先か鶏が先か有耶無耶になる。
ちなみに夫の主治医は、抗うつ薬の副作用については1秒も説明しなかったらしい。主治医はレイコに協力してくれた共犯者かもしれない。診察も毎回1分程度だったようだが、何の罪に問えない。これも因果関係など不明だから。薬を飲んだのは、自分の責任だから。
レイコは夫が死んだからと言って別に幸せにはなれなかった。若い頃から二十年も無駄にしたと思うと虚しく、これから再婚も出産も難しい事は、罰を受けているのかもしれない。鏡の中には、疲れた顔の中年女性がいた。若い頃は浜崎あゆみに似てると言われたが、全く面影はなかった。
健康に気をつかい過ぎるのも、かえって老けさせる事もあるようだ。最近はビーガンをやっていた。肉や魚も食べていないせいか肌は常に乾燥していた。健康に気を使っている自然派も、意外と長生きしていない事例も多いらしいと聞く。
だからと言って私生活を切り売りしたようなインフルエンサーとして稼いでいるので、この界隈から離れられない。毎日、肉や魚を食べられないストレスが降り積っていく。正直、意識高い玄米菜食にもウンザリしていた。本音では袋に入った添加物まみれのパンが食べたい。先週から微熱も続き、何となく心身ともに調子も悪い。これはブーメランというものなのかもしれない。
蒔いたものは、必ず刈り取る時があるのだ。それは生きてる間だけでなく、死んだ後にもあるかもしれない。例えば地獄の様な場所もあるのかもしれない。精神科医の自殺率が高いのも、何か因果関係があるのだろうか。精神科医の自殺者は一般人の五倍と言われている。
夫を殺した完全犯罪・完。
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