第8話 港

文字数 2,624文字

 着地点はレングランド大陸最北。降雪の多い港付近だった。ライノーツにいくつもある港の一つ。

 より具体的な位置は、そこの鎖の錠が張り巡らされた倉庫の中だった。倉庫内に入るにあたって壁の薄い場所を近くに会った手斧で破壊して入った。そして、空いた箇所は適当な鉄板と幻影魔法でさも傷一つないようにみせている。

「しっかし埃臭いな。暗いしカビの匂いもする。もう少しましな寝床はなかったのかよ」

 寝ている間に何度か意識が戻っていた事は知っていた。しかし、それもほんの僅か。目が覚めつつも、ぼんやり夢が混じっていたそうな。

 彼女は起きてすぐに名を名乗った。

「エイブリー。姓は知らない。ただ目が覚めた時、目の前にあんたがいたから少し寝覚めは悪かったよ」

 まずこの言葉から紐解くとするなら、その後の会話も含めることになる。

「あんたさ、なんであいつらも一緒に助けなかったんだ? なんなんだあんたは。強いんだろ。あんな強靭な石の鎖を素手で破壊できるのに、なんであの程度の二人倒せなかったんだよ」

 もちろん、僕はすぐには答えず、やがて、二人だからだ、とだけ言った。

「そうじゃない。そもそもなんであいつらが私の仲間だって知っててそんで私だけ助けたんだよ! いい加減にしろよ! 皆で助かるつもりだったのに、余計なこと」

 どっかから適当にひったくってきたボロい毛皮を布団代わりにしていた彼女はそこに爪を食いこませる。

 僕はもう何度かため息を吐いてストレスも一緒に追い出した。いちいち説明するのがめんどくさかった。

「食料はご都合主義的に全て揃っている。ここは食糧庫だ。ただし、カビがひどいから、密封されてるやつ以外は食うな。採光がないけど、光が欲しければそこの鉄板をどかしな。ただし、長く外してると魔法が溶けて丸見えになる。服はあんたが寝てる間に、色々見繕ってきた。全部盗品……といいたいところだが、向こうにいるとき、金目の物をいくらか拝借してきた。ちゃんと買ってあるから、見つかって何かに追われる心配はない。あとは寒ければ、着こめ。さすがに火は起こせない。そんなわけで僕は行く。用事がある。命の安全がある程度確保された今の君にばかり手を煩わせてる余裕はない。じゃあな」

「ああ、勝手にしろ! 助けてくれてありがとう! でも大きなお世話だったよ! あそこにはあんたは知らんだろうけど、私の家族もいたんだ! ほんとうに大きなお世話だったよ! けっ!」

 そんな捨て台詞に僕は何を言うでもなく、そのまま鉄板を外して、立ち去った。立ち去る前に、周囲を見回し誰もいないことを再確認すると外から、被せた鉄板に手を這わせ、

「今から君はこの壁と一つになる。中身を守る守護者となる。その板の中ほどに見張りの目をつけておいた。外部からの侵入者を見つけたら中の人に知らせておくれ」

 幻影魔法を上掛けしていった。これは鉄板を物とみず、流動する素粒子とみなす、概念を元にした幻影魔法。全ての物体は生命も含めて素粒子でできている。そのすべてに魂が宿るとした、魔法。己の概念を変化させることで、物にまで幻をみせることができる。簡単にやっているが、僕の頭の中でおきている魔法の構築手段は王族の高価な服を作るより遥かに工程が多い。

 その工程を短くしたのが、より高度な魔法になる。経験だけではなく才能もいるが、今のこの国に、才のある人間は現存しない。ほぼ全て処刑されたからだ。

「よし、いくか」

 エイブリーとか名乗っていた少女の元へはもう戻る気はなかった。僕には使命がある。誰に命令されたわけでもなく、だからこそ重要な生きる意味だ。以前はそれすら意味を失くして、死に向かおうと諦めていた。何度も諦めて、今ようやく意欲が戻りつつある。

 彼女を助ける意欲。

 港を出たあたりで、どこぞの船から降りてくる渡航者の集団と合流し、紛れ込むことに成功した。すると集団の下に検閲の人間が近づいてきた。だらしないが、身なりはまともな壮年の男だった。簡単なボディチェックだ。やがて僕の番が来た。

「あーあんた、一応チェックいいかい?」

 第一関門、二重検閲。話によるとたまに外から火縄銃とか、使途不明なサーベルとか凶器を持ち込むことがあるらしい。それ以外では危険薬物や感染源となりうるウイルスの入った怪しいドリンクや、規制値オーバーの高濃度の酒類、毒草なんかもみるらしい。一通り終わって次の検閲に差し掛かるころにはもう何時間か経過していた。時計くらい持っているだろう身なりの渡航者が昼過ぎの時間帯を告げていた。

「いやあ、昔はこの辺ももっと緩かったはずなんだけどなあ。あれがきてからというもの、何でも危険危険って王様も臆病になっちまったみたいだな」

 石畳の上を名も知らぬ集団と歩きながら、町並みに目を配る。

 屋台が川の様に連なる商店街。船を作るように張られた洗濯物の数々。飛び交う生活音と、活きのいい商人の声。

 僕はこの辺りのことはあまりよく知らなかった。ライノーツでも北の方は寒くて来たことがなかった。基本的に寒がりなので、本能的に近寄らないようにしていたのかもしれない。ルシル島も寒かったが、こちらは少し夕陽が水平線の向こうに顔をのぞかせる夕刻になると雪を降らせてきた。

 今夜の寝床を考える必要性がでてきつつあった。手持ちの金(かね)は、ルシルでこっそり拝借した金(きん)を数グラム売った金(かね)が780ベイス。価値で言うと、庶民レベルで少し豪華な食事が十回か、まともな衣を整えるのにフルで使うか、宿に7泊できる程度だ。宿は飯がでれば100ベイスは超える。安宿なら半分ですむが、有害な環境か虫がでまくるか、寒冷地なら、戸板や窓がなくて屋内で死にかけるかのどちらかだ。

 とりあえず、物見遊山をしたあとで、僕は近場の安めでぎりぎり許容範囲の普通の宿に泊まった。素泊まりだから、安宿と値段は変わらない。

「一人客は最近珍しいんだよ。ゆっくりしてきな」

 そうして2階の角部屋が宛がわれた。

「さあて、どうすっかな……」

 ひとまず、寝るべきか、考えるべきか、それとも夕食を外で済ませてくるべきか。悩んだ末に、とりあえずひと眠りすることにきめた。

 その日は屋内で宿には何故か2階に窓がなく一面壁なので月は見えなかった。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

後々記載するにゃ

実は前に出した分を削除してしまったので再投稿にゃ

因みに吾輩は作中で喋る猫として登場するにゃ

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み