第6話 捜査依頼①

文字数 1,326文字

 正語(しょうご)は自分の部屋に入る前に、リビングに寄った。

 ドアを開けるといつものように正語の両親——大柄な正思(しょうじ)と華奢な光子(みつこ)が、並んで座っている。

 正語が顔をのぞかせた途端、父親の正思が満面の笑みで手招きしてきた。

「正語くん、ちょっと来て! 一輝(かずき)くんのアイフォンが出てきたんだよ!」

(またか! 失くし物が出てきたくらいで何、騒いでるんだ!)

 帰宅の挨拶を言うだけで退散するつもりだったが、父親に呼ばれた正語は部屋に入り、2人の正面の肘掛け椅子に腰を下ろした。

「浮かない顔してるわね。悩み事?」と光子がからかうように顔をのぞきこんできた。

 玄関先で秀一に冷たくしてから、気が塞いでしかたがなかった。
 まさか母親に見透かされているわけではないだろうが、正語は顔を引き締めた。

「正語くんも食べる? 『つる瀬』の豆大福。智和(ともかず)さんから頂いたんだよ」と、正思は小さな目を細めて大福の半分詰まった容器を寄こしてきた。

「夜中に、糖分摂るなよ。医者から体重落とせって、言われてんだろ」

 テーブルの上には瓶ビールまである。
 正語は呆れて父親を見た。

 元ラガーマンの正思は、かつては筋骨たくましいプロップ体型を誇っていたが、60過ぎた今、肥満体型へと変わりつつあった。

「智和さん、湯島で落語、聴いてきたんだって。元気そうだったよ。なんか前より若々しくなっちゃってさ、アレ絶対、女の人がいるよ。僕、昔っから、そういう勘がすごくいいんだよ。
 もうすぐ秀ちゃんに、新しいお母さんが出来るかもしれないね!」

 酒に関係なく、正思は饒舌な男だった。

「正語さんも、飲む?」と光子がおっとり言うと、正思が大きな体をひょいと浮かせた。

「グラス取ってくる」

「いいよ。俺はもう寝る」

 父親みたいな体型になってたまるかと、正語は腕組をした。
 そもそもビールと大福という組み合わせが理解できない。

「じゃあ、お茶いれてくるから、これ食べてて」

 正思は浮かせた腰のまま、再び正語に大福を勧めてきた。

「話があるなら、早く言ってくれ」

 正語が言うと、正思はさっと腰を下ろした。両手を膝に置いてかしこまった。

「ちょっと、長い話になるんだけどね」

「手短に」

「犯人探してきてよ」

「なんの犯人だ」

「賽銭箱にスマホ置いた犯人」

「なんだそれ」

「一輝くんのスマホが神社で見つかったから、誰が置いたのか捜査して」

「捜査? 俺がか?」

 何を言い出すんだと、正語は思いっきり嫌な顏をしたが、正思は目を細めてニヤニヤしている。

「だって正語くん、警察官じゃん」

 正語はイラついてきた。

(こいつ、からかってんのか!)

「一輝くんのスマホ、神社の賽銭箱の上に置かれてたんだって、どう思う?」 

(さあな)

 正語は壁の時計を見た。
 明日も早い。11時にはベッドに入りたかった。

「いつ失くなったか誰も知らないんだよ。変だと思わない? 
 最新のアイフォンだよ。あんな高価なものが失くなってるのに、遺族は誰も気にしなかったんだよ!
 まあ、あの家はすっごいお金持ちなんだろうけどさ、それにしても、一輝くんが遺体で見つかった時、スマホを持っていたのかどうか、それすら誰もわかっていないんだって!」

 おかしな話だよねと、正思は興味津々といった顔で正語を見つめた。


 
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登場人物紹介

鷲宮秀一、主人公の高校生

九我正語(くがしょうご)、秀一の従兄弟、警察官

九我正思(くがしょうじ)正語の父親。人の恋愛感情を瞬時に見抜く特殊能力を持つ。

九我光子、正語の母親。秀一の伯母。

雅、介護士。雅は熟女スナックにいた時の源氏名。本名は不明

夏穂、秀一の幼馴染。秀一に片思い。

涼音(すずね)、秀一の幼馴染

武尊(たける)、秀一の幼馴染

賢人、秀一の甥っ子

真理子、みずほ中学の教師

コータ、真理子の弟、秀一の幼馴染

野々花、パンケーキ店の女主人

岩田、秀一のテニスの師匠

鷲宮一輝(故人)秀一の兄

鷲宮輝子(故人)秀一の母親。正語の母親、九我光子の妹

水谷凛、夏穂の従姉妹

鷲宮智和、秀一と一輝の父親

鷲宮高太郎、智和の兄

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