世界線

文字数 904文字

「また自殺を選びましたね。教授」
「あぁ……これで何回目だ?」
「丁度二百回目です」
「そうか……」
「結局、何回演算しても、同じ行動をとり、同じ結末をたどりますね」
「……リトライの準備を」
「……分かりました」
 私の研究所。
 私は並行世界、パラレルワールドの立証しようと研究を続けている。
 ここの設備は世界屈指の脳科学AI設備を有している。
 昔から脳科学の研究は盛んに行われ、脳の電気信号で義手が出来るようになれば画期的な発展と四半世紀前には、言われたものだった。
 だが、今の現代。
 人の脳を高速量子コンピューターの演算能力と、バイオ記憶装置の躍進によって、そのまま取り込めるようになったのだ。
 その最先端が私の研究所であり、四半世紀前の科学者が見たら絶句するだろう。

 それはさておき、そんな装置とパラレルワールドがどう関係あるのか?
 実は大ありで、一人の人生をやり直す事で変化が起きるかを研究している。
 もし。
 もしも。
 ifが存在するので有れば。
 この少年は別の選択肢で動くのではないか。別の選択肢で生きるのではないか。それを検証している。
 しかし。
 現在の所、記念すべき二百回を迎えたが、少年の自殺する運命も変えられず、我々が記憶の改竄して作った『人生リセットボタン』も押そうとしない。
 もしかすると、人間は。生命は。生まれたときから、どのように生きるかプログラムでもされているのかも知れない。
 私はもう一度、演算結果を待った。

・・・・・・

「結果。三百回目。少年は自殺を選びました」
「そう……か」
「……リトライ、準備します」
 この結果を受け、私は並行世界が存在するかに疑問を持ち始めた。
 この少年は……自殺するようにプログラムでもされているかのように。
 私もこの少年と同じく、生命のプログラミングを施されているのだろうか。この少年の様に……延々とこの残酷な実験を繰り返すようなプログラムを……。
「なぁ。君は自殺するように命令でもされたのかい?」
 私はバイオ記憶装置に接続されている、五年前に学校で自殺した少年の脳に、ガラス越しに話しかけた。
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