自殺少年
文字数 1,970文字
僕は学校の屋上に居る。
高校の三年間。僕は卒業式の日を選んだ。
この学校とも。
くだらなかった十八年間とも。
僕は卒業する。……そう、僕は死に場所をここに選んだのだった。
高校生活で受けたイジメ。それに併せて成績の低下。受験の失敗。
就職の失敗。親子の不仲。
僕はもう生きる希望を無くしてしまったのだ。
ただそれだけ。
世界からこのちっぽけな僕が居なくなるだけなのだから。
現在では約百億人になった人口の一雫でしかないのだから。
僕がこの世界から居なくなって嘆く人はいるか? ……ひょっとしたらいるかも知れない。幼なじみのあの子とか。不仲な両親ももしかしたら。昔仲良かった友達も……。
でも、生きていればきっと記憶は風化していき、僕の事なんて忘れるだろう。きっと、僕が居なくなれば、世界の歯車は円滑に回るんじゃないか。そうとさえも思えてしまう。
結局の所、死ぬ理由なんてちっぽけなのかも知れない。
でも、僕にとってはそれはとても大きい。
生きていくだけでも辛いのだから。
生き地獄なのだから。
生きてるだけで、針の筵を着せられているような。そんな心の痛さがあるのだから。
結局なんだろう。
自殺に理由なんて必要なのだろうか?
強いて言うなら、生きていくことに絶望した。
ただそれだけだ。
もしも、イジメが無く、希望の大学に入れたら?
もしも、両親と仲が良かったら?
もしも、心の支えになってくれるような友達が居たら?
もしも、彼女なんて居たら……。
もしも、もしも……。
この現状は変わったのだろうか?
……分からない。
もう、御託はもういい。
僕はこの世から消えることを望んだ。ただそれだけなのだから。
僕はフェンスに上ろうとした。
その時にふと見知らぬ声がかかった。
「お兄さん。これからどうするんだい?」
僕は困惑した。さっきまで誰もいなかったはずなのに。
風貌は僕の父ぐらいの年齢……だろうか? 白衣を着た科学の先生の様にも見える。
けど、ここは学校。こんな教師なんて知らないし、ましては学校の生徒であるはずもない。
卒業式にこんな不審者を入れる学校の警戒態勢を疑ってしまう。
僕はしばらくその白衣を着たおじさんを見つめていた。
しばしの沈黙を切り、僕はおじさんに話しかける。
「誰?」
「名乗っても、すぐに忘れるでしょう。それよりも先の質問には答えてくれないのかな?」
「……」
「言いたくないなら良いさ。君は自殺をしようとしてるんだろ?」
「!?」
「おっと失礼。見透かしたようで失礼した。私は君に選択を与えにここに来たんだよ」
「選……択……?」
「そう、選択さ。そこから飛び降りるか、私の作った『人生リセットボタン』を押すか。それとも、ここで生きる選択をするか。どうだい?」
「『人生リセットボタン』?」
「うんうん、興味を持ってくれて嬉しいよ。このボタンは君の人生をはじめっからやり直すことが出来るボタンさ」
「人……生……のやり直し?」
「そうそう、君の人生をやり直すボタンさ。君の十八年ちょっとを遡る。いわゆるタイムリープだよ」
「タイム……リープ?」
「うんうん、でもちょっと仕組みがあってね。代償に君の今ある記憶は抹消されるから」
「……」
「どうだい? 死ぬかボタンを押すか、はたまたここで踏み止まるか。……まあ、三つぐらいかな? 選択は。どうする?」
僕は困惑した。
正直、おじさんの言うことの中身はほとんど理解できない。
でも、僕はここで自殺しなくてもいい方法を一つ提示してくれた。
『人生リセットボタン』
今の馬鹿げた人生をリセットしてやり直す。さっき考えてた『もしも』が変わる可能性だってある。そう、自殺しなくて良い未来に変えることが出来るかも知れない。
……いや。
よく考えろ。
『今の記憶は抹消される』
さっき考えていた『もしも』を変えることで出来る可能性はあるのだろうか?
否。
きっと、僕が僕であるように。
きっと、僕は同じ行動をするだろう。
そして、このおじさんのリセットスイッチ。
もしかすると。
もしかすると、過去の僕が居て、僕はすでに押しているのかも知れない。
ネットで昔話題になった話に似ている。
スイッチを押すと時間の狭間に閉じこめられて、苦痛を強いられる代わりにご褒美が貰える。そして時間の狭間に居た記憶は抹消される。褒美ほしさに苦痛を忘れて押し続ける話。
もしかしたら、僕もそのループに入っているのかも知れない。
そう考えると、このおじさんのスイッチはその危険をはらんでいる。
そうなれば、僕の答えは決まりだ。
僕はおじさんを横目にフェンスに勢い良く上った。
高校の三年間。僕は卒業式の日を選んだ。
この学校とも。
くだらなかった十八年間とも。
僕は卒業する。……そう、僕は死に場所をここに選んだのだった。
高校生活で受けたイジメ。それに併せて成績の低下。受験の失敗。
就職の失敗。親子の不仲。
僕はもう生きる希望を無くしてしまったのだ。
ただそれだけ。
世界からこのちっぽけな僕が居なくなるだけなのだから。
現在では約百億人になった人口の一雫でしかないのだから。
僕がこの世界から居なくなって嘆く人はいるか? ……ひょっとしたらいるかも知れない。幼なじみのあの子とか。不仲な両親ももしかしたら。昔仲良かった友達も……。
でも、生きていればきっと記憶は風化していき、僕の事なんて忘れるだろう。きっと、僕が居なくなれば、世界の歯車は円滑に回るんじゃないか。そうとさえも思えてしまう。
結局の所、死ぬ理由なんてちっぽけなのかも知れない。
でも、僕にとってはそれはとても大きい。
生きていくだけでも辛いのだから。
生き地獄なのだから。
生きてるだけで、針の筵を着せられているような。そんな心の痛さがあるのだから。
結局なんだろう。
自殺に理由なんて必要なのだろうか?
強いて言うなら、生きていくことに絶望した。
ただそれだけだ。
もしも、イジメが無く、希望の大学に入れたら?
もしも、両親と仲が良かったら?
もしも、心の支えになってくれるような友達が居たら?
もしも、彼女なんて居たら……。
もしも、もしも……。
この現状は変わったのだろうか?
……分からない。
もう、御託はもういい。
僕はこの世から消えることを望んだ。ただそれだけなのだから。
僕はフェンスに上ろうとした。
その時にふと見知らぬ声がかかった。
「お兄さん。これからどうするんだい?」
僕は困惑した。さっきまで誰もいなかったはずなのに。
風貌は僕の父ぐらいの年齢……だろうか? 白衣を着た科学の先生の様にも見える。
けど、ここは学校。こんな教師なんて知らないし、ましては学校の生徒であるはずもない。
卒業式にこんな不審者を入れる学校の警戒態勢を疑ってしまう。
僕はしばらくその白衣を着たおじさんを見つめていた。
しばしの沈黙を切り、僕はおじさんに話しかける。
「誰?」
「名乗っても、すぐに忘れるでしょう。それよりも先の質問には答えてくれないのかな?」
「……」
「言いたくないなら良いさ。君は自殺をしようとしてるんだろ?」
「!?」
「おっと失礼。見透かしたようで失礼した。私は君に選択を与えにここに来たんだよ」
「選……択……?」
「そう、選択さ。そこから飛び降りるか、私の作った『人生リセットボタン』を押すか。それとも、ここで生きる選択をするか。どうだい?」
「『人生リセットボタン』?」
「うんうん、興味を持ってくれて嬉しいよ。このボタンは君の人生をはじめっからやり直すことが出来るボタンさ」
「人……生……のやり直し?」
「そうそう、君の人生をやり直すボタンさ。君の十八年ちょっとを遡る。いわゆるタイムリープだよ」
「タイム……リープ?」
「うんうん、でもちょっと仕組みがあってね。代償に君の今ある記憶は抹消されるから」
「……」
「どうだい? 死ぬかボタンを押すか、はたまたここで踏み止まるか。……まあ、三つぐらいかな? 選択は。どうする?」
僕は困惑した。
正直、おじさんの言うことの中身はほとんど理解できない。
でも、僕はここで自殺しなくてもいい方法を一つ提示してくれた。
『人生リセットボタン』
今の馬鹿げた人生をリセットしてやり直す。さっき考えてた『もしも』が変わる可能性だってある。そう、自殺しなくて良い未来に変えることが出来るかも知れない。
……いや。
よく考えろ。
『今の記憶は抹消される』
さっき考えていた『もしも』を変えることで出来る可能性はあるのだろうか?
否。
きっと、僕が僕であるように。
きっと、僕は同じ行動をするだろう。
そして、このおじさんのリセットスイッチ。
もしかすると。
もしかすると、過去の僕が居て、僕はすでに押しているのかも知れない。
ネットで昔話題になった話に似ている。
スイッチを押すと時間の狭間に閉じこめられて、苦痛を強いられる代わりにご褒美が貰える。そして時間の狭間に居た記憶は抹消される。褒美ほしさに苦痛を忘れて押し続ける話。
もしかしたら、僕もそのループに入っているのかも知れない。
そう考えると、このおじさんのスイッチはその危険をはらんでいる。
そうなれば、僕の答えは決まりだ。
僕はおじさんを横目にフェンスに勢い良く上った。