第1話 回転寿司

文字数 1,076文字

「久しぶり、元気?」

 送ってから何日も未読のままのLINE。無視される悲しさが文字として残るのがつらい。大学の最初の授業で知り合った女の子に久しぶりに連絡してみた。話のきっかけもなく、深夜テンションで送った。

 高校では恋人に恵まれず、悶々とした日々を過ごした。大学デビューを狙って何人かの女子に話しかけてはみたものの、やはりアプローチが苦手で長続きしない。

 上京してきて半年が経つ。親元を離れて何もかもが自由になったというのに、大学生らしいことの1つもできていない。合コンもサークルも恋愛も。あんなに必死こいて勉強して夢のキャンパスライフを目指してしたというのに、このざまだ。

 スマホがバイブ音とともに光る。やっと返信がきたかと思えば、またあいつだった。

「けんたろー、ラーメン行かね」

 大学での唯一の友達、ゴメスからだ。純日本人のゴメスは最初からあだ名がゴメスで、そう呼んで貰えると嬉しいらいしいのでそう呼んでいる。

 おっけー、と返事をしてとりあえず駅に向かった。ゴメスも同じく上京組で、アパートは違うが最寄り駅は同じだ。

「どうした、そんな顔して」

 出会って第一声、挨拶もなくそう言われた。

「俺たちいつになったら彼女できるんだろうな」

 出会って第一声、挨拶もなくそう言う。溜め込んだ性欲はまだ食欲に変わっていない。

「なに。また連絡して無視されてんの」
「いぇす」

 ゴメスは腕を組み、ラーメン屋の店長みたいに仁王立ちしている。ゴメスは生まれつき筋肉質で、体格がいいというだけの理由でラグビー部に無理矢理入部させられたことがあるという。やめるにやめられなくて、3年間ベンチを温め続けたらしい。

「まあまあ、とりあえず寿司でも食って元気出しましょうや」

 何かがあったとき、必ずゴメスが言うそのセリフ。奢ってくれるどころかむしろ、俺より多く食べて同じ額割り勘させられる。

「ラーメンはどうしたよ」

 確かにラーメンよりは寿司の方が食べたいが、お金がない。

「回転寿司にラーメンあるの知らないの」
「知ってるけど、なんかあれ勿体ない気する」

 寿司屋のラーメンが嫌いなわけではない。むしろバラエティ豊かでいいと思う。けれど大学生の懐事情的に寿司なら寿司、ラーメンならラーメンとはっきりさせたい。

「そういいなさんな。男は黙って回転寿司」
「かっこよくねぇから」

 俺たちのキャンパスライフは回転寿司みたいに通り過ぎていく。マスク姿の女子たちはみんな美人に見える。誰も取らずに何周もして、目が回る。

 男子大学生も寿司と同じで新鮮さが大事。

 誰か俺を食べてくれ。ゴメスとその他の男以外。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み