第1話 花咲くアルディア国
文字数 1,928文字
パーフェクトワールド 花咲くアルディア国
サーバー 日本
レベル64 マクリール
チャットルーム リラの園へようこそ
アクセス中
しばらくお待ち下さい…
アクセス中を示す画面の中央の黒い渦が10秒間周り、
黒衣に長い黒髪、掘りの深い細面の顔に顎髭を生やし、自分の背丈程もある杖を持ち全身に黒い瘴気を纏わせた黒魔道士、マクリールは一年中鈴なりのピンクの花が咲き誇る円形の石畳の公園、リラの園の木のベンチに腰掛け、パーティーの仲間たちの入場を待った。
やがて、シャボンのように縁が虹色に輝く球形のバリアに包まれたヒーラー、ぽぽるんレベル78が3頭身の愛くるしい縫いぐるみなような妖精の姿で浮いたままマクリールのとなりの席に付き、
「おっつー(お疲れさん)マクリールー。こないだの週末イベント『白龍グヴィバーの討伐』キミ活躍したポルよ」
と気安く挨拶した。
「あれは光属性の龍だから内部崩壊の黒魔法が効いただけのことだよ」
と顎髭を撫でながらマクリールが謙遜すると、
「活躍して褒められたんだからそこは素直に喜んでいいと思うよ」
という言葉と共に畳ほどの大きさの盾を肩に担ぎ、背中には身長越えの大剣を担いだタンク(盾役)レベル80の青銅騎士、ユリウスがマスクを被りながら入場し、マクリールの斜め前のベンチにどっか、と腰を下ろした。
「いらっしゃい!盾!」
「私たちの盾、ユリウスよ!君がいるからこのパーティ瞬殺免れているポルよ」
「あからさまに盾盾呼ぶなって」
と一応は抗弁しといたが
「俺はコントローラー操作が下手だから耐久度上げて守るだけよ」
とすんなり自分の立場を認めてから黒魔術師と妖精と青銅騎士の三人は結成三ヶ月のパーティーの付き合いでどうやら自分たちは同い年の高校生らしい。と解って来たので最後のメンバーが入場するまでの間、他愛もないお喋りで時間を潰す。
「部活帰りにシャワー浴びてからのこのチャットが憩いのひと時ポルよ」
とぽぽるんがバリアごと嬉しそうにぐるりん!と体を回しながら喜びを表すとユリウスは、
「ぽぽるんが体育会系と知った時はみんなで驚いたよね」
とマスクごとうなずいた。
「ま、そこはファンタジーを守るために何部かは秘密ポルけどね」
「お互い解ってるってば」と瘴気を纏った不吉な面相でマクリールは顔を綻ばせる。
「黒魔道士が笑うと不気味さ三倍増し!」と見掛けを突っ込まれて笑ってられるのは…
お互いがアバターという仮の姿だからだ。とマクリールは解っていた。
「それにしてもスノウホワイトさん遅いなあ、また残業かなあ」
パーティー唯一のアタッカーにして白銀槍騎士のスノウホワイトは実生活は社会人であり、急な残業でクエストやチャットルームに遅れる事があるのは三人とも承知している。
そこにタイミング良く現れたのが小柄でスレンダーな体を白銀の鎧で纏い、両耳のあたりに鳥の翼が付いた兜を被った美形の白銀騎士、スノウホワイト。レベル99の猛者である。
「遅れてごめんね!さっき帰宅したばかり」
と言って両手で拝んで謝る仕草をしてみせた。
「いいですって、そんなに平に謝んなくても」
「そんなのがってんしょーちのポルよ」
「社会人って大変ですねえ…」
とここでパーティー仲間が全員集まり、「皆さん、先週のグヴィバー戦大健闘だったね!」から来週のクエスト打ち合わせを兼ねた他愛のないお喋りが始まる。
「こないだの模試、ユリウスのアドバイスのお陰でA判定取れたよ。理系の君に感謝します」
「A判定?凄いポル!」
「テンパらず数字と記号を一字一字を見て絶対ケアレスミスをしない。が数学の基本だからねー」
「えっへっへー、お陰さまで実はわたちもケアレスミス克服できたポルよ」
という未成年な仲間達の会話を
「みんな頑張ってるねー青春だねー」
とスノウホワイトが見守るこのチャットが黒魔道士マクリールが唯一人に心開いて話せるひとときだった。
ゲーム初心者の自分を「あなた、強い召喚獣待ってるね!仲間に入らない?」とパーティーに誘ってくれたのがスノウホワイトさんじゃなかったら自分は若者同士のチャット特有の不用意な一言ですぐこのゲームを辞めてしまっていたかもしれない。
かようにコミュ力に自身が無く、根暗文系で学校の成績を盾に自分の立ち位置を守っているだけのマクリールに人生の転機が訪れたのはさらに一ヶ月経った七月。
「もうすぐ夏休みだね。お姉さんゲーム歴長いけどこんなに居心地のいいパーティー初めてだよ
思い切って言ってしまいますけれど、…みんなでオフ会しない?」
アバター名マクリールこと九十九茂。
高校二年生夏休み直前、突然年上の異性からのお誘いを受け、心臓が躍り上がったのは2019年夏の事であった。
次回、「初回クエスト、保護者に許可を得る」に続く。
サーバー 日本
レベル64 マクリール
チャットルーム リラの園へようこそ
アクセス中
しばらくお待ち下さい…
アクセス中を示す画面の中央の黒い渦が10秒間周り、
黒衣に長い黒髪、掘りの深い細面の顔に顎髭を生やし、自分の背丈程もある杖を持ち全身に黒い瘴気を纏わせた黒魔道士、マクリールは一年中鈴なりのピンクの花が咲き誇る円形の石畳の公園、リラの園の木のベンチに腰掛け、パーティーの仲間たちの入場を待った。
やがて、シャボンのように縁が虹色に輝く球形のバリアに包まれたヒーラー、ぽぽるんレベル78が3頭身の愛くるしい縫いぐるみなような妖精の姿で浮いたままマクリールのとなりの席に付き、
「おっつー(お疲れさん)マクリールー。こないだの週末イベント『白龍グヴィバーの討伐』キミ活躍したポルよ」
と気安く挨拶した。
「あれは光属性の龍だから内部崩壊の黒魔法が効いただけのことだよ」
と顎髭を撫でながらマクリールが謙遜すると、
「活躍して褒められたんだからそこは素直に喜んでいいと思うよ」
という言葉と共に畳ほどの大きさの盾を肩に担ぎ、背中には身長越えの大剣を担いだタンク(盾役)レベル80の青銅騎士、ユリウスがマスクを被りながら入場し、マクリールの斜め前のベンチにどっか、と腰を下ろした。
「いらっしゃい!盾!」
「私たちの盾、ユリウスよ!君がいるからこのパーティ瞬殺免れているポルよ」
「あからさまに盾盾呼ぶなって」
と一応は抗弁しといたが
「俺はコントローラー操作が下手だから耐久度上げて守るだけよ」
とすんなり自分の立場を認めてから黒魔術師と妖精と青銅騎士の三人は結成三ヶ月のパーティーの付き合いでどうやら自分たちは同い年の高校生らしい。と解って来たので最後のメンバーが入場するまでの間、他愛もないお喋りで時間を潰す。
「部活帰りにシャワー浴びてからのこのチャットが憩いのひと時ポルよ」
とぽぽるんがバリアごと嬉しそうにぐるりん!と体を回しながら喜びを表すとユリウスは、
「ぽぽるんが体育会系と知った時はみんなで驚いたよね」
とマスクごとうなずいた。
「ま、そこはファンタジーを守るために何部かは秘密ポルけどね」
「お互い解ってるってば」と瘴気を纏った不吉な面相でマクリールは顔を綻ばせる。
「黒魔道士が笑うと不気味さ三倍増し!」と見掛けを突っ込まれて笑ってられるのは…
お互いがアバターという仮の姿だからだ。とマクリールは解っていた。
「それにしてもスノウホワイトさん遅いなあ、また残業かなあ」
パーティー唯一のアタッカーにして白銀槍騎士のスノウホワイトは実生活は社会人であり、急な残業でクエストやチャットルームに遅れる事があるのは三人とも承知している。
そこにタイミング良く現れたのが小柄でスレンダーな体を白銀の鎧で纏い、両耳のあたりに鳥の翼が付いた兜を被った美形の白銀騎士、スノウホワイト。レベル99の猛者である。
「遅れてごめんね!さっき帰宅したばかり」
と言って両手で拝んで謝る仕草をしてみせた。
「いいですって、そんなに平に謝んなくても」
「そんなのがってんしょーちのポルよ」
「社会人って大変ですねえ…」
とここでパーティー仲間が全員集まり、「皆さん、先週のグヴィバー戦大健闘だったね!」から来週のクエスト打ち合わせを兼ねた他愛のないお喋りが始まる。
「こないだの模試、ユリウスのアドバイスのお陰でA判定取れたよ。理系の君に感謝します」
「A判定?凄いポル!」
「テンパらず数字と記号を一字一字を見て絶対ケアレスミスをしない。が数学の基本だからねー」
「えっへっへー、お陰さまで実はわたちもケアレスミス克服できたポルよ」
という未成年な仲間達の会話を
「みんな頑張ってるねー青春だねー」
とスノウホワイトが見守るこのチャットが黒魔道士マクリールが唯一人に心開いて話せるひとときだった。
ゲーム初心者の自分を「あなた、強い召喚獣待ってるね!仲間に入らない?」とパーティーに誘ってくれたのがスノウホワイトさんじゃなかったら自分は若者同士のチャット特有の不用意な一言ですぐこのゲームを辞めてしまっていたかもしれない。
かようにコミュ力に自身が無く、根暗文系で学校の成績を盾に自分の立ち位置を守っているだけのマクリールに人生の転機が訪れたのはさらに一ヶ月経った七月。
「もうすぐ夏休みだね。お姉さんゲーム歴長いけどこんなに居心地のいいパーティー初めてだよ
思い切って言ってしまいますけれど、…みんなでオフ会しない?」
アバター名マクリールこと九十九茂。
高校二年生夏休み直前、突然年上の異性からのお誘いを受け、心臓が躍り上がったのは2019年夏の事であった。
次回、「初回クエスト、保護者に許可を得る」に続く。