第3話 シャボン玉ぽぽるん伊予日記ポルよ
文字数 2,598文字
愛媛県松山市在住のとあるネットゲーマーの日記。
7月上旬晴れ。
この日のトレーニングは伊佐爾波神社 の135段の石段ダッシュ10往復。
この運動は一見昭和のスポ根アニメ感満載だが下半身の筋肉を鍛え尚且つ瞬発力と持久力と心肺機能を高めるのに適している。
入部当時から週に一度はこの階段走って来た三年生とあたちら二年は慣れたコースだが、まだ慣れていない一年生は5本目の上りで息が上がり、
「もうえらい…(もう疲れた)」
と汗だくで立ち止まるのでここで二年生の役割、後輩の体操服に掛けたタスキを引っ張って階段頂上まで連れて行かなければ上りの一本は終わらないのだ!
「へいへいへーい、どうした?けんどんばれ!(頑張れ)」
と三年の先輩たちは既に部活引退状態なのでこの「後輩引っ張り」は免除されて自分たちだけで軽々と石段を上り終え、一年を引っ張り上げながら汗だくで階段を上って来るあたちら二年を「まさに上から目線」で見下ろしている。
ちっくしょ〜今に見ておれ…と愛媛県立南條高校某体育会系部活に所属するあたちぽぽるんはなんとかかんとかこの日のトレーニングを消化し、
最後に部員全員が一人につき10円玉一枚ずつを賽銭箱に投げ入れて主将の村上ちゃん(実はあたちの親友なのら)が代表して注連縄の鈴を鳴らして二礼二拍手し、
「ありがとうございました!」と部員全員並んで本殿に向かってお礼を述べるのが毎週水曜日の放課後の部活。
部員たちは神社から徒歩5分の所に「坊ちゃん湯」として有名な公衆浴場、道後温泉本館で部活の汗を洗い落とし、酷使した筋肉をほぐす。
風呂上がりに飲むのはもちろん、持参のシェーカーを振って作る冷たいプロテイン。
今日は大好きないちごケーキ味なので格別に美味しい。
風呂上がりでスッキリしたあたちは途中まで村上ちゃんとお喋りしながら分かれ道でじゃあねまた明日ねと手を振り合ってから帰宅し、
「お帰りなさーい、つむぎー。あなた部活帰りと思えないほど石鹸のいい香りするわねぇ」
と老舗の呉服屋、「このはな屋」の店頭から出て来た見た目も涼しげな縹色 (藍色を薄くした色)の着物姿の女将は今年45才のあたちの母、ゆかりさんなのだ〜。
「今度のオフ会は相手が博多駅のオープンエリア指定…ってここからじゃ高速バスで一晩かけて行く距離じゃない!あんたそこまでして今のパーティメンバーに会いたいの?」
と夕食の鶏胸肉ほぐしサラダうどんを食べ終え、コップの麦茶を飲み干してからたん!と音を立てて座卓に置いたあたちの四つ年上の姉でこの店で美容師兼着付け師として働いているしのぶお姉ちゃんが本当に呆れた、と言いたげな眼であたちを見た。
「だってあんた、前にもオフ会行ってリアル友達と続かなかったんでしょ?オフ会でLIME交換して三日後には既読スルーされてグループから弾かれてさ」
そーなのだ。実はあたちは過去2回アルディア国オフ会に誘われて参加ちたけど…結局リアルでは仲良しになれなかった。
「今時の若い子は大人しぶってその実狷介で冷たい奴らばかりだからお姉ちゃんこれ以上つむぎがネットで傷付くとこ見たくないなー…ねえ、欠席するって選択肢もあるんだよ」
と座布団の上でにじり寄るお姉ちゃんの声には、
ハァ?ネットで青春謳歌かよ。遊んでないで店手伝え!という凄みがこもっていた。そんなお姉ちゃんを止めたのは、
「しのぶ、やめよ。(やめなさい)三度目の正直でつむぎがお友達作れるチャンスじゃないの?」
と柔らかい声で娘を叱るお母サマの一言だった。
さすが15年間女将として店を守り、子供二人を育てて(父とは10年前に離婚)来たお母サマ。いざと言う時、強い。
「結果なんて後にならなきゃ解らないもの。とにかく行くだけ行って楽しんでくればいいのよ」
と学校も夏休みに入った7月22日。家族に送り出されたプレイヤー名ぽぽるんことつむぎ17才は早朝発の特急にと岡山駅発の新幹線を乗り継いで博多駅に着いたのは7時間後。
約束の時間13時の10分前に待ち合わせ場所である博多駅ビルの屋上公園、つばめの杜広場に着いたつむぎは親子連れが乗るミニ機関車をぼんやり眺めている同じ年頃の男子二人連れが視界に入った。
片方は細面の可愛い顔に眼鏡を掛け、青縦縞の襟付き半袖シャツに薄い灰色のテーパードパンツに白いスニーカー。
と清潔感溢れる格好をしていてもう一人は連れより5センチほど背が高く、抜けるように色白でお公家さんみたいに優しげな顔をしていて灰色のサマーニットにインディゴのジーンズに月のマークが入ったブランドの黒スニーカーを履いている。
二人が「仲間」マクリールとユリウスだと気づいたのはスマホを覗く彼らが「参ったなあ、スノウホワイトさん『20分程遅れるから屋上で時間潰してて』だって…」「あと一人のつむぎさんはそろそろくる頃なんじゃないの?」と会話していたからである。
つむぎは胸の鼓動を深呼吸して抑えながらも、
「あ、あのう…もしかしてマクリールさんとユリウスさん?」
と声を掛けてみた。
落ち着いて。もう過度な期待はするな。実際の見た目で引いて離れてしまうような人は友達になる縁も無かったと思って今日を楽しもう。
「初めまして、ぽぽるんです」
と前髪をかき上げたぽぽるんこと本山つむぎが180センチ近い長身の黒Tシャツがよく似合う彫りの深い顔立ちのガチムチ筋肉質男子だったことにプレイヤー名マクリール九十九茂とプレイヤー名ユリウス匂坂潤二は一瞬目を見開いて驚き、
「シャボン玉妖精とギャップあり過ぎ!人生のサプライズベスト3に入りました!」
と茂が、
「つむぎ、って名前だから女子だと勝手に勘違いしてました…ごめんなさい!」
と潤二が心の声をそのまま口に出して伝えてくれたので
あ、この人達割と誠実寄りの正直者だ。と好印象を持った。
最初のオフ会の女子高生の「鍛えすぎ、キモッ!」の嘲笑と2回目の中年男性の「名前だけで詐称だよ」のがっかりした反応で付いた心の傷が少し癒えた気がした。
「ラグビー部なんでこのような見た目ですけど…あの、僕の第一印象ってどうですか?」
とつむぎはおそるおそる聞いてみたが、茂と潤二は「何というか、ナイスガイ」「うん、光属性」と頷きあったので、
お袋、三度目の正直で会えたパーティ仲間は二人ともいい奴そうだ。来てよかったよ。
とペットボトルのオレンジジュースを飲みながら出会いの喜びをしみじみと噛み締めた…
7月上旬晴れ。
この日のトレーニングは
この運動は一見昭和のスポ根アニメ感満載だが下半身の筋肉を鍛え尚且つ瞬発力と持久力と心肺機能を高めるのに適している。
入部当時から週に一度はこの階段走って来た三年生とあたちら二年は慣れたコースだが、まだ慣れていない一年生は5本目の上りで息が上がり、
「もうえらい…(もう疲れた)」
と汗だくで立ち止まるのでここで二年生の役割、後輩の体操服に掛けたタスキを引っ張って階段頂上まで連れて行かなければ上りの一本は終わらないのだ!
「へいへいへーい、どうした?けんどんばれ!(頑張れ)」
と三年の先輩たちは既に部活引退状態なのでこの「後輩引っ張り」は免除されて自分たちだけで軽々と石段を上り終え、一年を引っ張り上げながら汗だくで階段を上って来るあたちら二年を「まさに上から目線」で見下ろしている。
ちっくしょ〜今に見ておれ…と愛媛県立南條高校某体育会系部活に所属するあたちぽぽるんはなんとかかんとかこの日のトレーニングを消化し、
最後に部員全員が一人につき10円玉一枚ずつを賽銭箱に投げ入れて主将の村上ちゃん(実はあたちの親友なのら)が代表して注連縄の鈴を鳴らして二礼二拍手し、
「ありがとうございました!」と部員全員並んで本殿に向かってお礼を述べるのが毎週水曜日の放課後の部活。
部員たちは神社から徒歩5分の所に「坊ちゃん湯」として有名な公衆浴場、道後温泉本館で部活の汗を洗い落とし、酷使した筋肉をほぐす。
風呂上がりに飲むのはもちろん、持参のシェーカーを振って作る冷たいプロテイン。
今日は大好きないちごケーキ味なので格別に美味しい。
風呂上がりでスッキリしたあたちは途中まで村上ちゃんとお喋りしながら分かれ道でじゃあねまた明日ねと手を振り合ってから帰宅し、
「お帰りなさーい、つむぎー。あなた部活帰りと思えないほど石鹸のいい香りするわねぇ」
と老舗の呉服屋、「このはな屋」の店頭から出て来た見た目も涼しげな
「今度のオフ会は相手が博多駅のオープンエリア指定…ってここからじゃ高速バスで一晩かけて行く距離じゃない!あんたそこまでして今のパーティメンバーに会いたいの?」
と夕食の鶏胸肉ほぐしサラダうどんを食べ終え、コップの麦茶を飲み干してからたん!と音を立てて座卓に置いたあたちの四つ年上の姉でこの店で美容師兼着付け師として働いているしのぶお姉ちゃんが本当に呆れた、と言いたげな眼であたちを見た。
「だってあんた、前にもオフ会行ってリアル友達と続かなかったんでしょ?オフ会でLIME交換して三日後には既読スルーされてグループから弾かれてさ」
そーなのだ。実はあたちは過去2回アルディア国オフ会に誘われて参加ちたけど…結局リアルでは仲良しになれなかった。
「今時の若い子は大人しぶってその実狷介で冷たい奴らばかりだからお姉ちゃんこれ以上つむぎがネットで傷付くとこ見たくないなー…ねえ、欠席するって選択肢もあるんだよ」
と座布団の上でにじり寄るお姉ちゃんの声には、
ハァ?ネットで青春謳歌かよ。遊んでないで店手伝え!という凄みがこもっていた。そんなお姉ちゃんを止めたのは、
「しのぶ、やめよ。(やめなさい)三度目の正直でつむぎがお友達作れるチャンスじゃないの?」
と柔らかい声で娘を叱るお母サマの一言だった。
さすが15年間女将として店を守り、子供二人を育てて(父とは10年前に離婚)来たお母サマ。いざと言う時、強い。
「結果なんて後にならなきゃ解らないもの。とにかく行くだけ行って楽しんでくればいいのよ」
と学校も夏休みに入った7月22日。家族に送り出されたプレイヤー名ぽぽるんことつむぎ17才は早朝発の特急にと岡山駅発の新幹線を乗り継いで博多駅に着いたのは7時間後。
約束の時間13時の10分前に待ち合わせ場所である博多駅ビルの屋上公園、つばめの杜広場に着いたつむぎは親子連れが乗るミニ機関車をぼんやり眺めている同じ年頃の男子二人連れが視界に入った。
片方は細面の可愛い顔に眼鏡を掛け、青縦縞の襟付き半袖シャツに薄い灰色のテーパードパンツに白いスニーカー。
と清潔感溢れる格好をしていてもう一人は連れより5センチほど背が高く、抜けるように色白でお公家さんみたいに優しげな顔をしていて灰色のサマーニットにインディゴのジーンズに月のマークが入ったブランドの黒スニーカーを履いている。
二人が「仲間」マクリールとユリウスだと気づいたのはスマホを覗く彼らが「参ったなあ、スノウホワイトさん『20分程遅れるから屋上で時間潰してて』だって…」「あと一人のつむぎさんはそろそろくる頃なんじゃないの?」と会話していたからである。
つむぎは胸の鼓動を深呼吸して抑えながらも、
「あ、あのう…もしかしてマクリールさんとユリウスさん?」
と声を掛けてみた。
落ち着いて。もう過度な期待はするな。実際の見た目で引いて離れてしまうような人は友達になる縁も無かったと思って今日を楽しもう。
「初めまして、ぽぽるんです」
と前髪をかき上げたぽぽるんこと本山つむぎが180センチ近い長身の黒Tシャツがよく似合う彫りの深い顔立ちのガチムチ筋肉質男子だったことにプレイヤー名マクリール九十九茂とプレイヤー名ユリウス匂坂潤二は一瞬目を見開いて驚き、
「シャボン玉妖精とギャップあり過ぎ!人生のサプライズベスト3に入りました!」
と茂が、
「つむぎ、って名前だから女子だと勝手に勘違いしてました…ごめんなさい!」
と潤二が心の声をそのまま口に出して伝えてくれたので
あ、この人達割と誠実寄りの正直者だ。と好印象を持った。
最初のオフ会の女子高生の「鍛えすぎ、キモッ!」の嘲笑と2回目の中年男性の「名前だけで詐称だよ」のがっかりした反応で付いた心の傷が少し癒えた気がした。
「ラグビー部なんでこのような見た目ですけど…あの、僕の第一印象ってどうですか?」
とつむぎはおそるおそる聞いてみたが、茂と潤二は「何というか、ナイスガイ」「うん、光属性」と頷きあったので、
お袋、三度目の正直で会えたパーティ仲間は二人ともいい奴そうだ。来てよかったよ。
とペットボトルのオレンジジュースを飲みながら出会いの喜びをしみじみと噛み締めた…