月下異人

文字数 468文字


『月下異人』


 
 砂漠の異人は月と旅をする。

 自由の真ん中で、()()なく。

 
 振り返れば、道なき道に、足あとだけが小さく残る。

 厳しい日差しを乗り越えて、ただ歩き続けた唯一の証。

 嵐がくれば、それもきっと消えてなくなるのだろう。

 
 僕らは、どこへ行く。
 
 僕らは、どこに立っている。

 僕らの足を、何が動かす。
 
 砂ばかりが続くこの道は、とにかくつまらない。
 
 
 ふと空を見上げれば、そこに月が浮かぶ。
 
 月は、そこに影を落とさないようにと、やさしく光っていた。

 月は、ひとりでに満ちたり欠けたりして、どうにも笑えた。

 月は、ふとした朝に太陽を食べにやってきて、僕らを驚かせてくれた。

 月は、どうしようもなく孤独な夜に、いつの間にか寄り添ってくれた。
 

 月を目指すことは永らく人の夢だった。

 月に魅入られることは人が狂えるだけの理由になった。

 
 孤独で残酷な自由の夜に、夢を見させてくれ。

 ただ道を行くことに、せめて狂わせてくれ。


 異人は月と砂漠を歩く。

 いずれたどり着く場所のことなど、たがいに何も知らないままで。



▼――『月下異人』――了
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