第1話 信仰者

文字数 1,125文字

私は、彼のことが好き。
彼のことを考えると、自然と、笑顔になって、
ふふふ、という笑い声があふれる。 
私は彼の、趣味、好きな食べ物、好きなスポーツ
好きな動物、好きな映画、ぜんぶしってる。
でも私は、彼に、会ったことがない。
素顔をしらない。
本名をしらない。
それは彼が小説家で、カサイレン。
というペンネーム使って活動しているから。







教室の隅で私はいつも本を読んでいる。
教室の真ん中では、スカートを短く折り畳んだ、声が大きくて、整った顔立ちをしている5人の女の子達が、高い声を上げて騒いでいる。
真ん中ではなくても、その近くだったり、廊下だったりで、みんな何人かで群れを作って、話をしている。
高校一年の秋の教室は、いくつかの群れを作った生徒達で形を成している。
私もそのうちの群れの一つに属しているけど、
みんな、ドラマの話やアイドルの話をしていて、一緒に行動はするけど、大して仲が良いわけではない。私だけなにか地に足つかない感じ。
だから隅っこで本を読んでいても誰にも気にされたり、話しかけられたりすることもない。
大好きな、カサイレン先生の、本をずっと読んでいても誰も邪魔しない。
高一の春にカサイ先生の本「世界信仰」を読書感想文の課題のために読んだ。そして、読み終えたとき、私の、世界が、動いた。
主人公の気持ちや、行動、全部こっちに伝わって、うまく言葉にできないけど、脳ミソにあった今までの人生が、急に情けなく見えてきた。
なんでこんなに、面白いものを、知らなかったのだ。自分の今までに怒りがフツフツと沸いた。
その怒りを、先生の本を読むことに、使った。
4月の24日に「世界信仰」を読んでから、
10月の今ごろに9冊の本を読んだ。もちろん全部、カサイ先生の本。
寝る前、朝の電車、学校の休み時間、家。
暇な時間があれば、ひたすら本をよんだ。
もう先生が出版している本は全部読んだ。
一冊につき、三回は読んだ。
でも、それだけでは足りなかったので、先生のインタビュー、プロフィール、あとがきにある、先生の趣味。全部読んで調べた。
だって、こんな素晴らしいものを書く人は、きっと素晴らしい人に違いない。だから先生のことをたくさん調べた。私の予想通り先生は素晴らしい人だった。作品では、残酷な言葉を使うのに、甘いものが好きで、猫が好き、何年前かに、友人からもらったぬいぐるみを今でも持っている。
なんて可愛い人だろう。
こんな人と結婚したい。本気でそう思った。
いやこんな人とじゃなくて、この人と、だ。
「起立」
学級委員の気だるそうな声が聞こえた。
昼休みが終わって授業が始まる合図だ。
急いでノートと教科書を出し真面目に授業を受ける準備をする。
これが、いつもの私。
先生の作品と、先生を愛してやまない、私。




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