第4話 前に

文字数 891文字

10月10日今月で唯一の祝日に私はクラスの子と買い物にきていた。
「ていうか、二人で買い物とか初じゃん!」
みきちゃんの声が良く通る。
みきちゃんは同じクラスで、一緒のグループに所属している。教室で目立つ存在ではないけど、私たちのグループの中で、唯一彼氏がいる。
髪やメイクに結構こだわっていて、一緒に化粧品を買うにはこれ以上ない人だ。
きっかけは、みきちゃんの方から私にLINEをしてきたことから、買い物に行くから付き添ってはくれないかというものだった。これは良い機会だと思い、二人で予定を立てていまに至る。
「コスメ買いたいの?、ならそっち先行こ!」
明るいみきちゃんに引きずられるようにして化粧品売場へ。一口にコスメといっても色々ある。
アイシャドウ、リップ、マスカラ、アイライナー、挙げたらキリがない。私も最低限の物は揃えるようにしてたけど、わざわざ新作を買うことはあまりなかった。
さて、何を買おう。先生が見て出来るだけ可愛いと思えるようにならなきゃ。やっぱり印象を変えるなら、アイシャドウか。
「んー?アイシャドー?なら絶対これでしょ!」
私が自分の視点で決めてもどうにもならない部分がある。だから、みきちゃんに聞いてより良い選択をする。みきちゃんが良いと言ったのは、オレンジの色味が目立つ四色のパレットだった。 
「このリップと合わせたらがち可愛いと思う!」
明るい組み合わせで、華やかな雰囲気がある。
みきちゃんがそう言うならきっと、万人受けするような物なのだろう。勧めてもらった2つの商品を手にレジへ向かった。
そういえば、カサイ先生の、2冊目の作品
「前へすすめば」に、
主人公がこんな風に化粧品を買う場面があった。
高校生の女の子が、初めて化粧品を買うシーン。
戸惑いながらも、想い人に近づくため、商品を選ぶ彼女の姿はひどく、現実味があって、まるで本人の体験をそのまま、写し出したみたいだった。
些細な日常ですら、先生が書くと一本の映画のようになってしまう。私も彼女のように、先生が想い描いた主人公のように、想い人のため、前へすすめているだろうか。
ああ、次は服を買わないと。先生により、近づくために。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み