結弦座

文字数 1,396文字

※お願いカミソリとか送ってこないでくださいね笑※

北京冬季五輪・フィギュアスケート男子フリー。最終グループ、6分間練習。
羽生結弦は羽生結弦と戦っていた。
前日のショート。冒頭の4loで転倒、次いで4S-3Tは、3Tが抜けて1Tとなってしまった。
結果、ショート終わって5位。

世界が、溜息に覆われた。

いや、2017年ヘルシンキの世界選手権だって、ショート5位から優勝したではないか。彼ならば、あの時のような大逆転を、演じてくれるに違いない。

羽 生 結 弦 な ら や っ て く れ る に ち が い な い

羽生は、海を越えて襲ってくる重圧を跳ね除けようと、まず軽く3Aを跳んだ。感触はいい。俺は寝てても3Aを跳べる。
しょーまが横を通りすぎた。しょーまは3位。メダル圏内だ。俺ももう27。これまで、しょーまに何度か勝ちを譲ったが、五輪は、絶対に譲りたくない。

俺はゆずるだけど、絶対にゆずりたくない。

な~んて、あの芸人に俺が寄ってるな・・・

これまで何度もピンチを乗り越えてきた。
ここ北京での衝突事故。二度とスケートが出来ないのではないかと絶望したけれど、そこからの復活。何度も世界最高点を塗り替えた。
2017年の大逆転劇。
足の怪我で出場自体が危ぶまれたけれど、平昌五輪で二度目の金メダル。


そして……そして、今日。
このフリーを持って引退すると、つい先ほど、発表したのだ。
今日こそ4Aを降りてくれると、全人類が今まさにテレビの前で固唾を飲んで見守っているだろう。

フリーの構成はこうだ。

4A、4Lo、3F、4S‐3T、4T‐1eu‐3S、3A‐2T

俺はこれまで4Aを、試合で成功させたことがない。あとわずかで回転が足りなかったり、ステッピングアウトだったり。
オーサーは、銅メダル狙いで無難にまとめろと言った。だが羽生結弦が銅なんかで満足するものか。
これが、最後の試合なのだ。4Aを跳ぶチャンスはもう、この一度しかないのだ。
4Aを跳んで、金メダルを獲るのだ。

曲は「SEIMEI」。またかもういいよと散々言われたが、4Aの練習に集中したいので仕方なかった。
衣装だけは、角度によって紫に見えたり青に見えたり緑に見えたりする特殊素材に変えた。

何がなんでも4Aを跳ばなければならない。
4Aを跳ばなければ羽生結弦ではない。
何度も起こしてきた奇跡の、これが最後の奇跡だ。
俺は今日、伝説となるのだ……!

名前がコールされた。
羽生はひとつ息を吐き、リンクへ出て行った。
SEIMEIのポーズを取る。
音楽が鳴った。

リンクを大きく旋回し、アクセルの構えに入った。
そして左足を――踏み切った。

「でりゃあああああああッ!!!」

1回、2回、3回、4回、……半。

まわったァァァーー!!!
その瞬間、アイスアリーナが、世界中が悲鳴と怒号と歓声に包まれた。

……だが、幾ら経っても羽生は降りてこない。
突貫工事で空いたままだった屋根の孔を突き破り、羽生結弦は回転しながら空へと昇っていった。
そして、星座になった。
彼は本当に、伝説となったのだった。

アクセルを跳ぶ構えの形をなしたその星座は『結弦座(ゆづるざ)』と名付けられ、結弦座(ゆづるざ)に祈ると、絶対無理な学校に奇跡的に合格できるとのジンクスが生まれた。

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