バリキャリの推し活事情

文字数 1,047文字

平日、社内の倉庫で私は後輩と一緒に備品のチェックをしていた。
ちらり、と腕時計を見ると17時を回っている。今日は柄にもなく頻繁に腕時計を確認している。
それもそのはず。今日は私の“推し”である女性アイドルグループ、ラブ・ユートピアのライブがあるから。
ラブ・ユートピアは5人組の女性アイドルグループで、完成度の高いパフォーマンスで注目を集めている人気急上昇中の若手なのだ。
元気はつらつに堂々と歌って踊る彼女たちは、私にとって心の支えと言っても過言ではない。
初めてのチェキ会の時なんてカメラの前に立った瞬間から緊張で記憶がなくなるくらいだったのに、何度もライブやチェキ会に足を運び、今では顔と名前まで覚えてもらっている。
この気持ちを誰かと共有したいが、高身長プラス表情筋が死んでいる顔のせいで周囲の人間からは少しだけ怖がられている私に、アイドルの話どころかプライベートの話をする人すらいない。
「これで備品のチェックは終わりですか」
声が聞こえる方向を向くと、バインダーに挟んだチェックリストを持ったやや細身の男性が立っていた。一緒に作業していた後輩の声である。
「そうだね。お疲れ様」
「お疲れ様です。」
彼は、顔立ちは平均的だが清潔感のある大人しい人物だ。時々、給湯室で見かけた時はぼそぼそ何かを呟いていたり、この間はお菓子(意図はないだろうが、ラブ・ユートピアのコラボ商品だったのでパッケージは丁寧に自宅保管している)を無言で差し出してくる等、偶に奇妙な行動をとることもあるけど、遅刻はしない、きっちり会議用資料は揃えてくれる、真面目な人として信頼している。
「わざわざごめんね」
「いえ、何かあればまた言って下さい。」
「ありがとう」
本人は鈍感なのか気づいていないが、こうしたさりげない優しさと清潔感のある見た目、あとはうわついた噂が一切ないため、一部女性社員から憧れの視線を向けられている。
(もったいないなぁ)
そう思いながら、自分には関係ない話だ、と思考を頭の隅に追いやった。
彼が持っているピンク色のペンが視界に入った。男の人が持つには随分可愛らしい色だ。
「可愛い色のボールペン持ってる、ね…」
そこまで言って思わず言葉に詰まる。よく見てみると、ラブ・ユートピアのメンバーのシンボルマークが描かれている。
「そのボールペン…」
思わず指をさす。自宅で使用しているので見間違えるはずがない、紛れもなく公式で販売されているグッズだった。
「…好きなんですか?ラブピア」
いつもは静かな君の瞳が、子供みたいにきらりと光った。
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